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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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とひとりが言って、それから、皆で顔を見合わせた。全員で藪をマジマジと見る。藪は自分が言ったことにみな頷いてくれるのかと思った。

しかし違った。「それはダメだ」とひとりが言って、その言葉に全員が頷く。誰の顔にも、《お前、まだ、そんなこともわかっていなかったのか》と書いてあった。

むろん全員、藪が後から急に入れられた補充員だと知っている。

ひとりが言う。「いいか? そんなことしたら、ガミラスに〈ヤマト〉の弱点教えるようなもんじゃないか。地球が知ればガミラスも知る。波動砲は欠陥兵器と敵に教えてどうするんだよ」

「あ」と言った。

「そうなったら〈ヤマト〉も地球もおしまいなんだよ。むしろ敵には、冥王星を〈ヤマト〉が撃つ気でいるものと思わせといた方がいいんだ」

「そうか」と言った。言うしかなかった。

「地球政府も予(あらかじ)め、冥王星に波動砲は使えぬものと見越している。でも試射やワープテストの結果は伝えていないから、詳細について何も知らない。知らせてはならないことになっている。だから市民に公表しようにも、具体的なものがない」

「そうか……」

「きっと、政府じゃ、テストの結果問題なく撃てるということになって、〈ヤマト〉が星を吹っ飛ばすのを期待してるに違いないよ。エリートさえ助かりゃいいって考えでいるに決まってんだし」

「そうか」と繰り返すしかない。「もともと波動砲は、冥王星を撃つためだけに〈ヤマト〉に積んだものなんだから……」

「そういうこと。それが後から『欠陥兵器で使えません』じゃ、官僚どもは立場がない。やつらにしたらたとえ死んでも自分のキャリアが大事なんだから」

「それに」とまたひとりが言った。「大多数のマトモな市民は、『冥王星は吹き飛ばすべき』と考えているってことも忘れちゃいけない。当たり前だろ。みんな子供を救いたいし、犬や猫も救いたいし、〈ノアの方舟〉の動物も救けたいと思ってるんだ。〈ヤマト〉が船一隻で、百とまともにやり合えるとは思わない。だからここは波動砲でやるしかないと考える。『撃っちゃいけない』なんて言うのは脳を虫に食われているやつだけさ。もしも市民が波動砲は使えないと知ったら、それこそ……」

「絶望だ」と三人目。「人は完全に希望を失う。正気の者はみんな首を吊るだろうな。後に残るのは狂ったやつだけ……」

「そんな」

と言った。しかしわかった。確かにそうなる。他の成り行きは有り得ない。波動砲が撃てないことが世に知られたら、その瞬間に人類は終わりだ。

後から来た自分と違い、元からいる船のクルーは〈ヤマト計画〉が抱える問題をよく理解しているのだとわかった。麻雀打ちが麻雀を知り、ルールや点数計算から、囲む面子の手の内を読み取る術(すべ)を身に付けるように……今日や昨日にゲームを覚えた初心者が太刀打ちできるものではない。

しかし、と思う。それでどうする。この難局を乗り越えて、役を作ってアガれる策は何かあるのか。

なければどうなると藪は思った。人類が自滅の道を突き進み、〈ヤマト〉がたとえ戻ったとしても手遅れで、存続の望みが絶たれてしまっていたら? それではすべてが無駄ということになってしまう。

麻雀卓を囲む面子を見回した。誰もがオレは機関員だ、与えられた仕事をやる他、何も考えるべきでない――そんなふうに考えているように見える。ようにしか見えない。彼らが優秀な人材であり、己の仕事の重要さを知ったうえでそのように構えているのもわかるのだが。

しかしそれでいいのだろうか、と藪は思わずいられなかった。これが他の船ならともかく、〈ヤマト〉は地球の最後の希望なのだろう。〈ヤマト〉がダメならすべてが終わり――なのに何も考えなくていいのか。打つべき手を皆が考えるべきではないのか。

自分の手元の牌を見る。このゲームに地球のすべてが懸っているとしたならば、何がなんでも勝たなければならないはずだ。『オレはやるべきことはやった、それで敗けでもオレのせいじゃない』と言うのは、この勝負では許されない。許されていいはずがない。

何か手があるはずだろう、と藪は思った。イスカンダルに望みを懸けるだけでない。他に人類が生き延びる道が。たとえば――。