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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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太田の前の3D画面には冥王星の立体像が果物のメロンほどの大きさで映し出されていた。膨大な量の情報がその球体を取り巻いている。何百という無数の線が星にマスクメロンのような刻み目を入れ、カゴに置いて網を被せて紐をかけたように。航海士の眼で太田はそのひとつひとつを解きほぐしているらしかった。登山家が地図の等高線を追って登攀ルートを探るように、ゴルフのキャディがホールの起伏を読み取ろうとするように。

冥王星でもし戦うことになれば、航海士の海を見る眼が必要になる。太田はそれを自覚して、〈ヤマト〉がどう立ち回るべきか検討しているのだろう。それも病気の父親に希望を与えるためなのだろう。それは島にもわかるのだが――。

「それで何がわかるんだ? 〈スタンレー攻略ルート〉なんてもんでも見つかったりなんかするのか? 〈ナントカ山道〉とかいうやつが」

まさかなあ、と思いながら聞いてみた。太田に及ばないにしても、宇宙海図の見方はもちろん知っている。しかし結局、星などどれも宇宙に浮かぶボールとしか見えないが。

「〈ココダ山道〉ですか。そんなのはあるわけないけど……」太田は言った。「とにかく、大きさと重力ですよね。それで何もかも変わってくる」

「まあな」

と言った。たとえば、土星の衛星で言えば、よく知られるのがタイタンとエンケラドゥス。だがタイタンは直径が5000キロと大きいのに比べ、エンケラドスは10分の1の500キロ――スイカとスモモほどに違う。エンケラドゥスには重力なんかほとんどないから、コスモナイトの貨物ポッドを古代は片手で持ち上げて遠く投げ飛ばしただろう。

当然、船の戦い方も、まるきり違うものになる。冥王星はエンケラドゥスとタイタンのほぼ中間の直径2300キロ。つまり〈メロン〉のサイズなわけだが――。

太田は言う。「敵はタイタンで爆雷を駆逐艦に撒かせたけど、冥王星であの手は使えないでしょう。きっと今度は最初からデカイやつをぶつけてくる」

「かもな」

と言った。冥王星に敵は百隻。うち半分が小物として、それを出してくることはすまい。小型の艦は〈ヤマト〉に対してせいぜい爆雷を撒くくらいしかできず、冥王星ではそれも無効。

〈ヤマト〉は駆逐艦ならば一度に三十を相手にできるとされているが、それは条件が対等のときだ。もしも相手が闇雲にただ突っ込んでくるようならば、五十だろうが六十だろうが軽く沈めてやれてしまう。敵がそんなバカでないのは明らかだから、冥王星では〈ヤマト〉の主砲をもってしても簡単には殺れないような大型艦十隻ほどで迎え撃ってくると想定すべき――。

そのくらいは別に戦術の専門家でなくてもわかることだった。島は言った。

「『冥王星に敵は百隻』とは言っても、実際にはそんなに多くと戦わなくていいって言うのか?」

「そう」と太田。「〈ヤマト〉はもともと大型艦との闘いを得意とするはずです。だからとにかくデカブツとの立ち回りを考えればいい」

「簡単に言うけどなあ」

「しかも、無理に相手を沈める必要はないわけでしょう。航空隊が基地を潰すまでの間、持ちこたえればいいんだから。〈ヤマト〉自体は戦わないで逃げてられればいいんですよ」

「だからそう簡単に言うが……」

「そこでこの冥王星の大きさですよ」

太田が3Dマトリクスの画(え)を切り替えた。星の一部が拡大されて中華鍋を伏せたような像になり、メダカほどの大きさの〈ヤマト〉が上を進むようすが表される。

「冥王星は小さいから、丸みが強くなりますね。大昔の人間がどうして地球は丸いと知ったか知ってるでしょう。水平線に船が行くと、船体からマストへと沈むように見えなくなる――」

「ああ」

と言った。船と言えば帆船で、帆が遠くからよく見えるほど大きかった時代の話だ。『そう見えるのは世界が丸いからだ』と言って、船乗りは新天地に乗り出していった。

「だからそれと同じですよ。地平線に隠れてしまえば、敵は〈ヤマト〉を狙い撃てない。冥王星の丸みを使って、敵のビームから逃げるんです」

「うーん」

「エンジンにあまり無理をかけずに済むし、主砲の過熱も抑えられる。これで〈ヤマト〉はかなり有利に戦えるんじゃないかと……」

「うーん」

「この戦法はタイタンくらい大きな星だと難しいし、逆に小さ過ぎてもできない。冥王星の大きさなら有効だと思うんですが……」

「うーん」と言った。「星の丸みが生む死角。それを使って敵の砲火を避ける、か……」

考えてみる。航海士の太田らしいアイデアとは言えるだろう。〈ヤマト〉の艦橋クルーに選ばれただけに、太田は優秀な人材だ。これも決して使えない策と言うこともなかろうが。

「そんなにうまくいくのか?」島は言った。「敵がお前の考えを見越して、対策を取っているってこともあるんじゃないか? そうしたらどうする」

「まあ確かに……でも、〈対策〉って、たとえばどんな?」

「『どんな』と言われても困るけどな」