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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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ふたりは身をすくませた。フェンスの向こうで反戦団体が『波動砲は決して使ってはならない兵器。冥王星を撃つのをやめよ』と叫んでいる。あの中にAKライフルの一挺くらい持っているのがいても全然おかしくない。今の話を聞かれたら、金網越しにバリバリ撃ち込んでくるだろう。やつらは人の命などなんとも思っていないのだから。

「助かるのは選民である我々だけだ!」

そう叫ぶ声がする。今の地球に『冥王星を撃つな』と叫ぶカルトはいくらでもあるが、そのすべては自分と仲間だけ生き延びて、他の九億九千万人は滅びる未来を夢見ているのだ。銃で人を殺すのは平和のための反戦活動。〈愛〉なのだからやっていい。

「それにしてもどうなんだろうな」

声をひそめてひとりが言った。

「石崎なんかはやっぱり言ってるんだろう。『決して〈ヤマト〉に冥王星は撃たせない』って」

「それがなんだよ」とひとりが応える。「〈ヤマト計画〉ってのは国連の計画なんだろ。地球防衛軍自体が各国の連合軍だぜ、一応は。いくら日本が今は世界のリーダーつっても、日本の首相に決定権があるわけじゃねえ」

「そうなの? なんか石崎って、自分が計画の立案者みたいな顔してんじゃん」

「いやいや。あいつは〈やまと〉っていう名前の船が〈宇宙スペイン〉を蹴散らして最後はカミカゼ特攻するのを空想しているだけでしょ。だいたいすべてを決めているのはイスカンダルの使者ってことになるんだろ? イスカンダルが言うことに地球は逆らえないんだろうが」

「あ、そうか。じゃあ待てよ。もしもイスカンダルが『冥王星を撃つな』と言えば……」

「〈ヤマト〉は波動砲を使っちゃいけないことになる……」

「そんなことを言うやつもいるな」

「まさか、そういう話なのか?」

「さあて」と三人目が言った。「政府は何も言わないけど……」

三人は黙り込んだ。政府――国連と地球防衛軍は、〈ヤマト計画〉について何も明らかにしない。〈ヤマト〉に地球を出てすぐに波動砲を撃たせながら、冥王星をやる気なのかどうかすら……それがテロや暴動を生み、カルト信者をより狂った行動に走らせているにもかかわらずだ。リーダー国の日本を見れば内閣首相や首都の知事までイカレポンチ。独裁者が政権を握ってしまっているのはどこの国も同じことだ。これでは何も明確なことが言えなくて当然と言えば言えるかもしれないが……。

それでも〈ヤマト計画〉の中心にいるのはイスカンダルの使者に認められた者であるはずだ。地下の人々を今日まで生きさせ、〈ノアの方舟〉なども維持して、まだ希望を失わない……この野球場だって、元はと言えばそんな者らが造ったものであるはずだった。今はこのザマとは言っても、まだ試合を続けている。

〈希望の砦〉であるがゆえに……『野球ができるうちは人は滅びていない』と言うだけは言っている。いつまでもつかだいぶ怪しい状況だが。

〈ヤマト〉が一発、敵の基地をやっつければ、人は希望を取り戻せもするはずだ。波動砲があるのなら、事は簡単なはずではないか。なのにどうして、政府は口を閉ざすのだ? 波動砲があるのに撃てない。そんな事情があるとでも言うのか?

「どうなんだろうな」とひとりが言う。「冥王星が吹き飛んだら、そこで叫んでいるやつらはどうする? 狂ったやつらがいよいよ狂って手がつけられなくなるんじゃないか?」

「まあそうだろうが、でもなあ」

降伏論者は『降伏すればガミラスは青い地球を返してくれる。だが波動砲を使ったら、永遠にその機会が失われる』と言っている。今もそのフェンスの向こうで叫んでいる。マトモな頭の持ち主ならばバカバカしくて聞けないような主張だが、彼らは本気でそうと信じ込んでいるのだ。なのに〈ヤマト〉が波動砲を撃ったなら、狂人達はさてどうする?

相手は血に飢えた殺人教徒。それが百万、一千万人。どうなるかなど、誰にもわかるわけがない。遠くでタタタとミシンを打つような音がするのは、今どこかで〈AK〉をぶっぱなしてるのがいるのだろうか。

『かくなるうえは最終手段だ!』

叫ぶ声が聞こえてきた。同時にダダッと音がして、まさに〈AK〉がフルオートで街の天井めがけて撃たれたのが見える。

『我々は銃を取る! 〈ヤマト〉などという船で、波動砲などという兵器で、すべてを解決できるなどと思う者を殺して殺して殺しまくる! そうしなければならないのだ!』

『おーっ!』

拳を振り上げ衆が叫び応えていた。球場の中の三人は、目をひん剥いてそれを見た。銃を連射する者は叫んだ。

『恐れることはない! 石崎総理のために死ぬ者は、緑の地球に必ず生き返るのだ! 死は一時(いっとき)だけのものだ! だから死のう! 戦って死のう! 総理の〈愛〉を受け入れぬ者を、ひとり残らず殺して死のう! 種子バンクに火を放とう! 〈ノアの方舟〉の動物を一匹残らず殺してやろう! そんなものを生かしてはならん!』

『おおーっ!』

興奮した者達がフェンスをバンバン叩いたり、支柱を揺すったりし始めた。中の三人は震え上がった。

「やっべえ……〈石崎の僕(しもべ)〉かよ」

「なんで死んでも生き返れると思うんだ?」

なぜか首相の石崎和昭を崇(あが)める者は、たとえ死んでも地球に海が戻るとき自分も総理が生き返らせてくれるのだと信じることで知られている。だから死を恐れずにどんなことでも平気でやるのだ。〈独裁〉とは元々そういうものであり、今の地球で独裁者にすがろうとすればなおさらそういう考え方になって不思議はないのかもしれない。

だが常人にはやはりまったく理解できない光景だった。三人はフェンスの向こうの狂宴を席の陰から見守った。

「まずいよ。ほんとに、これは内戦になるんじゃないか?」

「かもなあ。やっぱり、そういうのって、こういうふうに始まるんだろうから……」

ここだけじゃない。世界中のありとあらゆる地下都市が、血と炎のカマドと化す。それが始まる瞬間までもはや秒読みの段階に見えた。チクタク、チクタク……。

いや、内戦など、もうとっくに始まっているのかもしれなかった。問題は、いつそれが激化するかだ。火がどこまで燃え広がるかだ。人類はすでに滅亡の瀬戸際にいる。滅亡まであと一年とも言われている。

しかしそのリミットは縮める方にはいくらでも縮めることができるのだ。たとえばもしも種子バンクのすべての種が焼かれたら? 人類は何を食って生きると言うのだ。動物も。一年どころか、ひと月だって生きられるはずがあるものか。

人は食料を取り合って殺し合うことになるだろう。希望の砦を奪われたとき、人は速やかに滅び去るのだ。チクタク、チクタク……秒を読む時計の針は狂っていた。目盛りをいくつも飛ばしながら、〈ゼロ・アワー〉を目指して確実に進んでいる。〈滅亡の日〉まで本当はあと何日なのか、もう誰にもわからない。

――と、球場内がざわめき出した。あちらこちらで、「おい、見ろ」などと言う声が聞こえる。

さっきからの三人も見た。正面の大スクリーンだ。《ヤマト、土星で圧勝》の表示が消えて、新たなニュースが表れている。

こう出ていた。