敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
『「どのように反対されても」だとおーっ! これでもか!』テロリストが叫んでいた。『〈ヤマト〉よ! 軍や国連でなく我らの言うことを聞け! 今すぐガミラスに投降するのだ! そうしなければ貴様らが帰ってくるまでに日本人はひとり残らず死ぬと思え! 冥王星をもしも撃ったら日本人は全部殺す! 女も子供も全部殺す! 必ずだ! それでもやると言うのであれば、見ろ!』
〈AK〉の連射を受けてボウリングのピンのように人が倒れる光景が映る。ストライクだ。
「うわー」と〈ヤマト〉艦内でクルーが言う。「どうすんだよ、一体……」
「迂回よ、迂回すべきなのよ。だからずっと言ってるでしょう!」航海要員のひとりが言った。「どうせ〈ヤマト〉に〈スタンレー〉は越えられない。わかっているはずでしょう? 〈ココダ山道〉を行くのは無謀よ。〈スタンレー〉は迂回してすぐ〈南〉へ向かうべきなの!」
「しかしだな」と戦闘要員。「事がこうなったところで敵を避けたら、それこそ〈ヤマト〉は逃げたもんと思われちまうぜ。でなきゃ、やっぱり〈ヤマト〉など元から存在しないんだ、なんてことになっちまう……そうなったらどうする。結局テロリストの思うツボだろうが」
「じゃあどうするの。上が発表したんだからって、波動砲を撃つ気なの? それこそ〈ココダの道〉でしょうが!」
「そうは言わないよ。だから、やっぱり航空隊で……」
「だからそれが〈ココダ〉と言ってるんじゃないの! 戦闘機隊を送り出して、基地を叩けなかったらどうする? パイロット達を見捨てて〈ヤマト〉だけワープで逃げることになるのよ。そんなんで旅が続けられると思う? いいえ、無理よ。できっこない。それにどのみち、コスモクリーナーを持ち帰っても人類は自滅しちゃってる。だから〈スタンレー〉を越えるのはやめて迂回するべきなのよ!」
「いや、迂回はテロに屈するのと同じだ! それをやったらもう人類に希望はない! 〈スタンレー〉を越えてでなければ〈南〉へ行くことはできない!」
「だからどう敵と戦うつもりなのよ! 勝てるもんならあたしだって『迂回』なんて言わないわよ!」
「それは、その……」
「ほら、なんにも考えなんかないんじゃない。それが無謀だと言ってるのよ。艦長は何を考えてるの?」
「は? なんだよ急に。話を変えるな」
「急な話じゃないでしょう。前から言ってることじゃないの。この〈ヤマト〉がいつまでも太陽系を出ないからこんなことになるんだし……〈スタンレー〉に行くなら行くで航空隊長があれって何よ。あのがんもどきが隊長で敵の基地が落とせると思うの?」
「腕はいいみたいじゃないか」
「そういう問題じゃないでしょう! あの一尉さんが隊長で指揮ができるの? できるようになるまでずっとここにいるの?」
「まさか。そうはいかないだろうが……」
「そうでしょ? ほんとに、艦長は何を考えてるの? だいたい、発進早々に波動砲なんか撃つから、市民が過剰に反応するようなことになったのよ!」
「そりゃあ、まあ……」
「そうでしょう。なのにその後はグズグズと……〈スタンレー〉に行くにしても迂回にしても、早くしなけりゃいけないのに、いつまでもここにいるから事が悪化するんじゃないの。艦長は一体何を待ってるわけ?」
「さあ、それは……」
「まさか、これを待っていた、なんて言うんじゃないでしょうね?」と航海要員は言った。「〈機略の沖田〉のことだから、こうなるのがわかっていた。すべて計算のうちだったとか……」
「いや、まさか。そんなことはないと思うが……」
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之