敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
〈ヤマト〉ならば、ひょっとして、冥王星に勝てるのか。基地の位置がわかるなら。それをやり遂げる者がいるなら。
ああ、確かに、できるのなら、誰かがやるべきだと思う。けれど、おれが? 一隊員としてならまだしも、決死隊の隊長として?
おれには無理だ。とてもできない。できるかもとも思えない。
筋トレマシンのバーハンドル。これももう動かない。手に力が入らない。
なんだこんなもん。タイタンで追われたときに比べたら――と自分でも思うが、無理なのは無理だ。古代は架にかけられたキリストみたいになって動くのをやめた。山本はチラリと眼を向けただけで運動を続ける。
「ねえ」と言った。
「なんですか」
「いや、別に」
「あと36回です」
「代わりにやっといてくれ」
ついでに隊長も、と思う。古代はすべてに降参して首をガックリ垂れた。そのときだった。
「ウチの隊長はいるか!」
声がした。トレーニング室の中に響き渡る。ドアを開けて入ってくるなりそう言った男が、筋トレマシンが並ぶ間をツカツカとやって来るのが古代が下を向いていてもわかった。
今、この室内では古代と山本の他にも数人、クルーが体を動かしていた。誰もが手を止め、声の主を向いたようだが、古代は気にしなかった。疲れて顔を上げる気もしない。
足音が近づく。どうやら何かの隊の者が、隊長さんを探しにここに来たらしい。けれどもおれの前は通り過ぎて行くだろう。おれの場合はおれを隊長と呼ぶのは山本だけで、それは隣りにいるからな。だから〈隊長〉とかいうのは、おれでない別の誰かだとわかるわけだ。以上証明終わり。
そう考えてそのままでいたら、すぐ前に人が立ち止まる気配を感じた。なんだろう、と思って古代は、まず右に眼を向けてみた。次に左を向いてみた。人が通り過ぎていったようすはない。
それで初めて重い頭を上げて前を向いた。黒地に黄のパイロットスーツ。タイガー隊の戦闘機乗りとひと目でわかる男がそこに立っていた。さらに視線を上げていくと、加藤の顔がそこにあり自分を見下ろしてるのと眼が合う。
「隊長、ちょっとよろしいですか」
「ええと……」
古代は背後を振り向いてみた。ひょっとすると加藤が隊長と呼んでいるおれが知らない人間が航空隊の中にいて、そいつが今この後ろに立ってるのかなと思ったのだ。しかし壁があるだけだった。
すると、と思う。まさかなあ。おれのことじゃないよなあと考えながら仕方なく聞いた。
「『隊長』って?」
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之