敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
「けどね」と言った。「船務科としては、クルーのメンタルに気を配る必要もあるのよ。〈スタンレー〉をこのままで行けば、この先〈ヤマト〉が旅する間、地球は大丈夫なのかと悩むクルーが大勢出ることでしょう。それを考えたら、後顧の憂いは断つに越したことはない……」
「とにかくだな」島は言った。「何よりも艦長だよ。『今のままでは勝てない』って言うのはつまり、『今のままでなければ勝てる』ってことなのか? 今は何がいけなくて、どうすりゃ勝てるようになるんだ」
「それは……」と太田。「なんだろうね」
「『なんだろね』って、〈ヤマト〉が百隻相手に勝てないのはわかりきっているだろうが。主砲とエンジンが焼き付いたら後は殺られるだけなんじゃ、どうしようもないぞ。太田は『デカいの何隻か相手にするだけならば』なんて言うけど、どっちにしても……」
「ん?」と森は言った。「どういうこと?」
「つまりだな」島は説明した。「太田の考え通りに行けば、少しは勝ち目も上がるだろうけど……」
「ははあ」
と言った。冥王星の丸みを使って地平線が作る死角を盾に敵と渡り合う戦法。島と太田のコンビネーションがうまく働くようであるなら確かにいくらか有利に戦えるのかもしれない。さらに太田が考えるように、敵が大型艦十隻程度しか出してこないと言うのなら――。
「でも、そんなにうまく行くの?」
「どうかな。おれは、そんなに甘くないと思うぜ」島は言った。「とにかく、おれは今のままじゃ、〈スタンレー〉行きに賛成する気になれない。『行くしかない』と言われても、勝ち目がないんじゃしょうがないだろ。それに問題は、敵の数だけの問題じゃない。航空隊が基地を見つけられるかどうか――」
――と、そのときだった。楕円形の展望室の、三人が今いる艦首側とは反対である後方端の入口から、ドヤドヤとクルーが大勢入り込んでくるのが見えた。そのほとんどが黒地に黄色のパイロットスーツ。
タイガー隊の戦闘機乗りだ。柔道着のようなのを着た姿も混じっている。
島が言った。「なんだ、ありゃあ……」
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之