敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
ゲームの結末
古代はもう限界だった。いや、限界など超えていた。
肺と心臓がもうオレ達は耐えられないと叫んでいる。走ろうにも足はもつれ、眼はかすんでよく見えず、腕を振ろうにも上がらない。重力が8分の1Gしかないにもかかわらずだ。ゼイゼイと息をつき、ヨタヨタと歩いて加藤と掴み合う。もう蹴り足も上がらないし、跳んだり壁を駆け上がることもできない。
それは加藤も同じであるようだった。こちらの胸ぐらを掴みはしても、投げ技をかけたり足を払って転ばしたりなんてことはできないらしい。その体力が残ってないのだ。古代を睨みつけながら、ヒイハアと荒い呼吸をしている。
「ひい……ふう……」
「ぜえ……はあ……」
古代と加藤は、楕円道場の真ん中で、組み合ったままとうとう動きを止めてしまった。互いに肩で息をして、ひたすら呼吸を整えに努める。
「なんだ……」と加藤が言った。「だらしねえな、隊長さんよ……もう息が上がったわけかい……」
「そ……」と古代。「そっちこそ……おれを敗かして隊の指揮を取るんだろ……なら、も少し頑張ったらどうだ……」
「言うじゃねえか……まだ、四機しか墜としていないがんもどきが……」
「はん……あんとき、もうちょっとで、〈がんもどき〉でエースになってやったのによ……」
ニヤリとした。「そうかい……おれが邪魔をしたって?」
「そうさ……」笑い返した。「おかげで、〈五機目〉がパーだ……」
「ほざいてろ」
言って加藤は、古代を背負い投げようとした。しかし、8分の1Gなのに、その途中で潰れてしまった。折り重なって畳に倒れる。
それきりだった。古代はもう動けなかった。重力八分の一どころか、八倍の重さになったみたいに体が持ち上がらない。加藤もどうやら同じようすで、ズルズルと畳を這って古代の下から抜け出したものの、それ以上は動かなくなった。
ふたりで荒く息をつく。しばらくすると加藤の呼吸に笑い声が混ざり始めた。
古代はゼイゼイ言いながら、加藤の方に眼を向けてみた。加藤は畳に突っ伏して、顔をこちらに見せないままに笑っている。その向こう、楕円の壁にズラリ並んでいる内窓は満員電車を外から見るような具合になっていて、アッケにとられた大勢のクルーがそんな加藤と古代を見ていた。
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之