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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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見ると、話しているのはこの球場の職員だった。賭博場と化したスタンドを掃除し、グラウンドを整備していた作業員だ。今日の今日まで、毎日毎日……たいした給料出るわけでもないだろうによくやるよなと、近藤は見て思っていたものだったが、その男は悔しげに今の球場を見やっていた。

スタンドは血にまみれ、グラウンドの芝はブルドーザーと重機ロボットに踏み荒らされている。飛べなくなったタッドポールが隅にどけられ残骸の山を作っている。正面の大スクリーンも流れ弾を受け、像の表示ができなくなっている箇所がいくつも出来ていた。

近藤は思った。これでは野球ができない――いや、もちろん、そんなことを考えている場合ではないのだが、しかし重要なことだ。この球場が出来たとき、人はなんと言ったのか。我々はこの地下でも野球ができる。野球ができるうちは大丈夫なのだと言ったのじゃなかったか?

野球場で野球ができるということは、社会が機能していること。それで初めて人が人としていられる。今は敗けでもいつか勝てる。そう考えて明日に希望を持つことができる。野球ができるということが、人類がまだ滅んでいない証拠だったはずだった。

〈滅亡の日〉まで一年弱――けれども言われるその数字は女が子供を産めなくなるまでというだけの期限であって、実は死線はとっくの昔に過ぎていると言う者もいる。もう一年も前から誰も子を作ろうなどとしてないからだ。子供を産んで育てることができないのなら、もう人類は滅んでいる。後は死を待つだけなのだ。

降伏論者はだから叫んだ。もう降伏するしかない。女が子供を産めるうちに降伏をと。けれど多くの人々はずっと『まだだ』と言ってきた。まだ大丈夫、滅んでいない。だって野球ができるじゃないかと。野球ができるうちは敗けていないのだ。戦争とはそういうものだ。人が団結できる証拠。前線で戦う兵を支えられる証拠なのだ。降伏はどうせ無意味なのだから、決してあきらめてはいけない。

そう言われてきた。そこで話しているあの職員も、だからずっとこの施設を整備し続けてきたのだろうか。野球場が野球場としてあることが、人がいつかガミラスに勝てる証拠だと信じて――どの地下都市の野球場にも、同じ考えを持つ人間がいるのだろうか。

やはりそうなのだろうと思った。他の街へ試合に行けば、どの球場にも地を均(なら)し席を磨いていた者達がいたように思う。しかし今、地球のどの地下都市も、状況は似たようなものだろう。テロリストが街を燃やし、野球場は軍の砦と化している。

これではもう野球ができない。社会が機能を失ったのだ。

「どうなるんだ、これから……」また誰かの声がした。「これはもう〈テロ〉と言うより〈内戦〉だろう。こんな状況が続いたら……」

「おしまいだ」応える声がした。「今日が〈滅亡の日〉だ」