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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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そう言われていた。明治大正の頃からずっと……〈プロジェクト4(フォー)〉とでも呼ぶべき陰謀により、日本は国をズタズタにされる寸前だったのだ。だってどうせ猿じゃないか。人ではないんだ。だから家畜にしていいんだ……白人達は平気でそう言っていた。そうだお前ら猿じゃねえかよ、猿を猿と呼んで何が悪いんだよと、面と向かって言っていた。彼らにとって〈戦争回避の努力〉とは、『猿が人間に逆らうんじゃないお前達は人間様に仕えてこそ幸せなのだなのにどうしてそれがわからん』と英語で怒鳴りつけ、日本人の尻を蹴飛ばし棍棒で殴ることだった。

当時の白人の思考では、それが〈人道(じんどう)〉だったのである。アメリカ国内で黒人の奴隷が解放されたとは言え、それはあくまで下僕(げぼく)として。〈準人類〉の身分に過ぎない。わずかなりとも反抗的な態度を見せれば即座にムチ打ち靴を舐めさせ、道の真ん中を歩くことも許さない。そして国外の植民地では、有色人種は牛や馬と同じだった。当時のキリスト教会が、〈人〉というのは白人だけだと教えていたから疑問を持つことすらなかった。しかし日本という国が、これをハネのけ刃向かってくる。アジアの民を〈人〉として扱えなどと言ってくる。許せん、猿の分際で……言って彼らは〈プロジェクト4〉を結成した。日本を四つに切り分けるのだ。

そうして他の劣等人種への見せしめを兼ねて、互いに殺し合わすのだ。百年でも二百年でも、白人の優位を保つために、いつまでも……必ずそうしてやるからなと、国際連盟の決議は言った。我らの自由の象徴であるニューヨークの女神像を護るため、貴様ら〈猿の帝国〉を必ず滅ぼしてくれてやる。その列島を〈永久戦闘実験室〉に変えてやるから待っていろ。

そう言われた。だから日本はこちらから戦争を仕掛ける以外に〈国家〉として在り続ける道はなかったのだった。たとえ敗けても易々と降伏などできなかった。赤道の敵を討たねばならなかった。しかし、ポートモレスビーは、スタンレーの高い壁の向こうにある。そこへ向かう最も低い道であってもその海抜は二千メートル。

〈ココダ山道(さんどう)〉――名前はあっても、実は道なき道だった。それでも基地を落とすには、そこを進むしかなかった。だが実行は不可能とされる。無理だ。できるわけがない――。

そこにひとりの参謀が立ち、いいや、無理でもやるのだと言った。無理だできぬと言ってはならぬ。やらねばならぬものはやる。道がないなら道を作っていけばいい。敵が待つならそれを倒していけばいい。

スタンレーをおれは越える! 彼は叫んだ。名を辻政信と言った。これは上の決定であり、陛下の御意志であるとも吠えた。だが、それは嘘だった。すべて彼の独断専行――しかしそれがバレても言った。おれは行く。行ってみせる。『アイシャルリターン』などと言うマッカーサーを討ってみせる。白いツラでおれ達を劣等人種と見下し笑う者どもにこれ以上アジアを思いのままにはさせん。太平洋はやつら白人の海ではなくて我々の海だ! それをやつらに知らしめる! やつらの王と神の名の下に民を奴隷化し、支配の限りを尽くしてきたマゼランの末裔どもとおれは戦う! 死ぬまで戦う! 日本の〈和〉をアジアの〈和〉に、世界の〈和〉に変えるのだ! これは〈和〉のための戦いなのだ。おれは〈和〉のために戦うぞ。命ある限りおれは戦う! 

みんなおれと共に行こう! ラバウルの海を背にして辻は叫んだ。誰もこのように兵を説く男を止めることはできなかった。ココダの道にとにかく行って、すべては後から考える。そんな無謀な案のもとに赤道の壁を越える作戦が決まった。辻政信はそれまで彼が戦ってきた地で常にそうしたように先頭に立って敵に挑むつもりでいた。

ところがなんと、ニューギニアに上陸直前、爆撃機に船が襲われ、辻は重症を負ってしまう。〈主役〉を欠いた部隊はそれでも基地を目指したが、これを予期していた敵はココダの道に罠を張り巡らせていた。日本軍は待ち伏せに遭い、射的のマトになっていいように殺されていった。

だがしかし、本当の敵は山そのものだった。兵達は熱帯のジャングルの中でマラリア蚊にたかられ、毒ヘビとクモとアリとヒルに咬まれ刺されて地をのたうった。ひとりひとりが50キロの荷物を担いで崖を登り、足を滑らせ転がり落ちた。補給なしの餓えに苦しみ、ついに最後の米も尽き、死んだ仲間の肉まで食って、骨だけ残して全員が死んだ。

それが太平洋戦争における最初の玉砕である。スタンレーでのこの敗北が初めとなって、日本軍は次から次に南の地で潰されていく。ソロモン、ギルバート、マーシャル、パラオ、マリアナの各島々で……そしてそこから飛び立ってくる爆撃機の群れにより、女子供の別なく火に焼かれていくことになるのだ。白人達は日本人をどうせ猿だと考えていたから、燃える街を空の上からざまあ見ろと笑って眺めた。

ニューギニア島スタンレー山脈。日本はかつて、そこに棲むという〈魔女〉に敗れた。その名は滅亡の象徴であり、敵の罠が待ち受ける地の象徴であるとも言える。ゆえに〈ヤマト〉の艦内で、冥王星のガミラス基地を指す隠語となっていった。戦闘要員は再戦の決意を込めて、航海要員は迂回すべきものとして共に山脈の名を使った。日本の南の赤道にあり〈進出〉を阻む高い壁。聞けばなるほどと納得する理由のはずのものではあるが、

「ふうん、それでスタンプラリーか」佐渡先生は言った。「で、みんなが騒いじょるのは、結局ハンコ捺してくことに決まったわけじゃな」

「エエト……マアソウデス。作戦名ハ赤道ノ山ニチナンデ〈じゃや作戦〉トナリマシタ。全乗組員、戦闘準備ニカカレトノコトデス」

「そうか。そういうことならば、わしはもっと飲まんといかんな」