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ライバル 2

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バン! と、わざと大きな音を立てて、ドアを閉めた。ビックリしたように、机に向かっていた同室の井沢が振り返る。
「ど、どうした? 反町?」
「何が」
 わかっていて、わざとぶっきらぼうに答えると、ベッドに寝そべり、天井を仰いだ。
「いや……態度もだけど、眉間。今、すごい顔つきだぞ、お前」
 ああ、そうだろうな。そうだろうともさ。
 俺は深く溜め息を吐くと反動をつけて起き上がり、井沢に視線を向けた。
「井沢、お前さ、例えば若林がMFに転向して、チームの司令塔になったらどう思う?」
「若林さんが? ないない」
 井沢は手を左右に振りながらハハッと笑った。
「だから、例えば、だよ」
 俺の真剣さが通じたか、井沢は笑顔を引っ込めると体をこちらに向かせたまま頬杖を突いて考え込んだ。
「んー。別に、といえば別に、かなぁ。修哲時代はあの人が司令塔みたいなもんだったし、南葛以降は翼を始め、岬だの三杉だの松山だの、ああ、葵や佐野、沢田もか。とにかくライバルが多過ぎて、1人増えたところで何を今更だし、それが若林さんなら尚更だしな……若島津がどうかしたのか?」
「……っ」
 正鵠を射たその名前に、ギクリ、と反応する。
「さっき、あいつに呼び出されて行っただろ? まさかとは思うが」
「その、まさかだよ」
 少し前、若島津に呼ばれて、タケシと3人で話していた。内容は、吉良さんご指名による若島津のFWコンバートについて。タケシの野郎は「明和時代からの夢がついに叶うんですねっ」キラキラッ、みたいな顔で喜んでやがるし、同胞東邦のよしみで俺達にだけ先に伝えに来た健ちゃんは俺の無表情との狭間でそれは居心地の悪そうな顔してるし、そりゃー居たたまれない状況だったわけだが、今、FWで、ベンチあっためる仕事に勤しむことを言い渡されまくっている、この俺に、どんな反応をしろと?
 確かに、俺は俺なりに小器用よ? ディフェンス能力高い自覚もあるよ? それはある意味有利だから伸ばそうともするよ? でもさ、FWは点取ってナンボでしょ? 俺、そっちも頑張ってたつもりよ? 日向さんはともかく、新田になんか負けたくねーし。なのに、ここに来ての健ちゃんFWとか何?
 タケシが明和時代の健ちゃんの輝かしい攻撃性とか語り出したけど、アーアーキコエナーイボクシラナーイ。ってか、わかってるから聞きたくないんだよ、ボケタケシが。
 俺の表情に複雑そうだけど、内心、健ちゃん自身も満更でもないんだろうさ。そりゃー愛しの日向さんとツートップ組めるかもしれないもんねぇ。気合い入るよね。
「ま、お互い頑張ろーぜ」とだけ言って自室に戻って現在に至る、と。
 話すだけ話して井沢に顔を向けると、無茶苦茶目を見開き、あんぐり口を開けていた。
「あらら。それはそれは……」
 何とも言えない沈黙。ごもごもと口の中で「吉良監督も思いきったことするなぁ」と呟いたり。
「正直、どう思う?」
「んー。若島津のスタミナやボール捌き、攻撃性は一応体験してるし、お前には悪いが、ありっちゃありな話かなぁ、と思うよ」
「それは、MF的な見解として?」
「としてもだし、かつて敵として対峙した実感として」
 かろうじて「俺とどっちが脅威か?」という疑問を飲み込んだ。
「まあでも、ああ見えて若島津は猪突猛進だからな。案外攻撃パターンは読みやすい気はする。正直、日向は規格外として、軽量級の新田よりはお前の方が面倒くさいと俺は思うけどね」
 井沢はそう言って目を合わせると、ニッと笑った。
「……!!」
 ……ちくしょう。人が聴きたい言葉をわかったように言ってきやがって。
「ま、俺もお前も強敵は多く、道のりは険しい、全ては神(監督)の思し召しのままに、ってとこじゃね?」
 ああ、そうだ。こいつは、今までだってそんな状態で戦いながら、それでも腐らずやって来ているんだよな。MFよりははるかに層の薄いFWたるこの俺が、たかだか1人増えたくらいで腐ってどうする、って話だよな。
「……ああ、そうだな。あの呑んだくれ爺の鼻を明かすだけのプレイをしてやろーじゃねーか」
「そうそう。ま、気張らず進もうぜ」
 2人でケラケラ笑っていると、控えめなノックの後でガチャリとドアが開いた。見ると、何とも弱気な顔の若島津だった。珍しい表情の若島津に、井沢は目を丸くした後で笑いを堪え始めた。おいおい。
「反町、いるか?」
「おう、若島津」
「さっきの話なんだが……」
「アーアーキコエナーイ。……ってか、ぜってー負けねー」
 無表情で言葉を被せ、一拍置いてからニヤッと笑って言い放ってやった。若島津の、鳩が豆鉄砲を食らったような顔。が、次の瞬間、破顔した。
「……俺もだ」
 さっすが健ちゃん。そうこなくっちゃな。
 良きライバル、良き仲間、良きチームに囲まれて好きなことに悩み、苦しみ、どっぷり浸かった日々を過ごせる俺は、きっと幸せ者なんだろう。
 明日は明日の風が吹く。未来は俺の手の中に。ポジティブなのが俺の取り柄、と言ったのは島野だっけ?
 ま、やるだけやっていきましょーかね。
 実際、言われるほどにポジティブじゃねーけど、本心もネガティブも押し隠せる程度には負けず嫌いよ? 俺は。
 とりあえず、同室の長髪その2に感謝しつつ、明日の正式発表を楽しみにしますかね。

【おわり】
作品名:ライバル 2 作家名:坂本 晶