Die Liebe des Elternteiles(前編)
***1
クリスマスの宴会に、具合が悪くなり2次会で早退し家で少し横になっていた。
何時間たっただろうか夜中に玄関をたたく音がする。
のろのろと体を起こし鍵を外すと
「本田!」
玄関の戸に手をかける小さい子供がいた。
「すまんが、今日泊めてくれないか」
「えと・・・」
青い目と金髪、どこか眉間に皺が目立つ子供。ある人物を彷彿させる。
背中には茶髪の少年を背負っている。
二人とも着ている服が大人用で全くサイズが合っていない。
「深夜に悪いが、こいつもぐったりしてるのでな。お前の所に寄らせてもらった」
「・・・寒いのでとりあえず中に入りなさい」
ルートに良く似た顔立ち、きっと子供の頃からあんなに難しい顔をしていたのだろうと
思うとちょっと可笑しくなった。
「外は寒かったでしょう。お風呂を沸かしますから、こたつに入っていなさい」
ふと時計を見ると夜中の3時。
「布団を借りた。あいつはすっかり眠ってしまっているから」
震えていた少年の頬をそっと触ると、ぽっと赤くなった。
「体が冷え切ってますね、寝ているあの子に自分の上着をかけてあげたから。
あんなに雪が舞っていたのだから寒かったでしょう」
この少年は背中に背負っていた茶髪の少年が冷えないように自分の上着を脱いでかけていた。
「お茶です。少し温かくなるでしょう」
「すまない」
「お父さんはルートさんですか?」
「ぶっ」
ルートの名前を出すと青い目の少年はお茶を吹き出した。
ごほごほ咳き込む少年の背を本田はさすってやる。
「ずいぶん似ていらっしゃいます。きっとルートさんも小さい頃はこんなに可愛かったんでしょうね」
にこっと微笑む本田の一言に首まで赤く染まる少年。
「それにしてもいつの間にこんなに大きなお子さんが・・・あ、ご兄弟ならギルベルトさんの
お子さんでもおかしくないですよね。もしかしてルートさんの弟さんとか」
「その、本田。俺がルートヴィッヒだ・・・」
楽しそうに話す本田に、少年は語尾が小さく、首をうなだれて水面にうつる自分の姿を見つめる。
幼い顔立ち、大きな青い瞳。小さな手のひら。
「信じてもらえないかもしれないが、俺だ」
「嘘ですよ。分かってます、ルートヴィッヒさんでしょう」
小さくなっても言動は変わらない。名前を呼ぶと少年の肩がビクッと震えた。
「目の前に居る男の子がルートさんだなんて想像もつかないですよ。普通そうです」
筋肉隆々、菊よりも背も高いルートヴィッヒ。でも目の前に座っているのは体も細い10歳程の少年。
「じゃあ、なんで俺だと思ったんだ」
冷えて赤くなった冷たい少年の手。寒さで腕に力が入っていた。自分よりもずいぶん小さい。
「さあ。なんとなく。そんな気がしたんです」
*
目を開けると日本家屋の天井。自分の家でもルートの家でもない。
木造でどこか木の温かみのある空間。
「おはよう〜」
「おはようございます、フェリシアーノ君」
隣の部屋でこたつに入りながらお茶を飲んでいる本田と目があう。
眠い目をこすりながら本田に近づいていくが、違和感がある。
「あれ、なんだか菊大きくなったね」
いつも顔を見下ろすはずの菊が座っているはずなのにやたら近い。
「よく寝たなフェリ。朝食の準備はできているぞ。」
青い瞳の少年。ルートを見てフェリが何度も目をこする。
「ルートちっちゃくなっちゃった!?」
ルートの小さい頃は知ってる。小さいのに眉間に皺のできる難しい顔をしていた。
よく見回すと全部大きい。机も、椅子も高い。
「え・・・俺巨人の国に来ちゃったの」
「鏡をみろ。俺たちが小さくなったんだ」
「ヴェェェェェ〜!?」
菊の家の洗面台に走っていく。いつも狭い菊の家が広い。
「エェェェェ!!!!!」
フェリの叫び声が台所まで聞こえる。
「ルート!どうしよう、俺小さくなってる!」
「ちょっと抱っこしてもいいですか?」
「ヴェ?」
泣いてるフェリを抱きかかえて頭をなでる菊。
「私は弟だったから、小さい弟ができたみたいで嬉しいです」
「何呑気な事言ってるんだよー!このまま戻らなかったらどうするんだよー」
じたばた暴れるフェリがかわいいらしく菊が笑っている。
「・・・まあ、心当たりはある」
ルートがつぶやく。
先ほどフェリが寝ている間にアルフレッドに電話をかけた。
『やあ!ルイスかい。君もチャイルド気分を楽しんでみたらどうだい』
電話口からアルフレッドの陽気な声が聞こえる。
『アーサーが目を覚ますまで、君たちも遊園地に行って楽しんでみると良いよ!』
相談にならない相談電話。考えるよりも現状を楽しめということらしい。
『クリスマスパーティ楽しかったんだろうね。アーサーはしばらく目を覚まさないよ』
がっくりうなだれるルートの後ろで本田が歓喜の声をあげる。
「遊園地行きましょう!今から準備すれば夕方まで遊べます」
「楽しそうだな本田」
異常に目を輝かせた菊が怖い。
「もしかして原因はアーサーなの?」
「聖なる夜は魔力が昂ぶるらしいとかなんとか・・・『俺もよく酷い目にあったよ』と
アルフレッドがそう言っていた」
慣れない箸を諦めてフォークでポテトをほおばる。
「フェリシアーノ君いいでしょう遊園地。弟二人連れて遊園地だなんて夢みたいです。
はりきってサンドイッチ作りますね!」
割烹着に腕まくりをして弁当箱を出し、ささっと準備する。
「ねえ菊。じゃあ玉子焼き作って欲しい。あれ美味しかったんだ。菊の玉子焼き好き」
「フェリシアーノ君、分かりました。ウサギのリンゴとタコさんウィンナーも入れますよ」
「楽しみだね、菊」
「菊・・・悪いが俺たちが外に出れるような服がない。」
ルートは元々の体型と全く違うので完全に服が合わない。
「大丈夫です!ちゃんと用意していますから」
きちんと畳まれた服はまだ新品のようだった。
「いつ買いにいったんだ!!菊」
用意周到さにルートヴィッヒが驚く。
「ルートさん、私は準備をしますのでフェリ君と一緒に着替えてください」
「フェリシアーノ、行くぞ」
「了解であります!」
菊がタコさんウィンナーを焼くフライパンの音が聞こえる。
作品名:Die Liebe des Elternteiles(前編) 作家名:千秋けん