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if you get up early

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恋するのって簡単じゃないな、とか最近は思ったりする。隣で寝ている恋人は、そんなこと思ったり考えたりしたこともないのだろうけど。
子供から大人になる中間点である今、自分たちの恋愛観は常に揺らめいて、そのときは一生懸命でこれで間違ってないんだと盲信していても、後で振り返ってみると愚行だったりする。つまり、この時期の恋愛なんてそんなもの。お遊びだ。一緒になれる訳もないし、こういった関係が一生続く訳もない。

わかってる。わかってるんだ。
なのに、諦めることができない。なんとかなる気がする。

若気の至りだね、なんてコイツはへらっと笑っていったけど、自分はどうしてもこの関係を一時の気の誤りとして投げてしまうことができなかった。

(一時の気の迷いで、男とつきあうわけないだろ)

真剣なのは自分だけなのだろうか、とまた答えが出るはずもない不毛なループにはまって、さっきまで残っていた眠気も吹き飛んでしまう。
もうカーテンの隙間から朝日がこぼれていた。

「及川、朝だよ。起きて」

短く声をかけるが、一瞬の身じろぎの後に無視される。ヤツは寝起きが最高に悪いから、起きる時間の少し前から何度も何度も揺さぶるしかない。これも付き合い始めて、何度も逢瀬を重ねてわかったことだ。一人のときの朝練の日はいったいどうやって起きていたのか聞いたら、「岩ちゃんにモーニングコールしてもらうか、泊めてもらってたよ」とまたへらりと笑って言っていた。

岩泉とも、こんなふうに曖昧でなあなあな関係だったのだろうか。
付き合っていることを告白したときの彼の表情にはなにも浮かんでいなくて、むしろほっとしているようにも見えた。そうか、お幸せにな。なんてお決まりの科白を吐いてもくれた。すんなりと受け入れられすぎて、逆にこっちが戸惑ったほどだ。

なあ、及川。こんなにも近くにいるのに、どうしてお前は遠く感じられるんだろう?
お前は一体、何にそんな傷つけられてきたんだ。甘い言葉と整いすぎた顔立ちと、すべてを騙しきるその声で何を覆い隠そうとしているんだ。


思い出を共有して、身体を許し合って、想いを言葉で確認しあって。
こんな風に一つのベッドに眠って。
だけど心はどこか遠いところにある。暴けたと思った本音さえも嘘なのだとしたら。

窓の外から鳥のさえずりが聞こえた。そろそろ本当に起きなければお互い朝練に遅刻だ。シャワーを浴びて、髪をセットして、まるで何事もなかったかのように家を出る。道は反対方向。何も言わずにキスだけをして別れる。それがルール。
そっとベッドから抜け出して、最後にもう一度及川の肩を揺さぶってみる。今度は反応さえもしない。深く深く、夢でもみているようだ。見ているとしたらどんな夢だろうか。その夢のなかでは、自由だろうか。


それでも、アラームが鳴り響いてスヌーズを始める頃には目が覚めるだろう。そうして及川は、隣に誰もいないこと。それから脱ぎ散らかしてあった制服もないことに気がつくだろう。


しかし今は、何も知らずに眠り続ける。深く、より深く。まるで赤ん坊のように。
作品名:if you get up early 作家名:廣瀬シウ