誰かから見た彼の話
彼に、どうして私を愛してくれるの?と。
彼は驚いたような顔をして、一度だけ瞬きをすると、考えるそぶりもせずに答えてくれた。
「もうずっと昔になるけど、僕はある男から言われたことがあるんだ」
"雲雀さん、貴方は人が大嫌いだけど、孤高を愛しているけれど、それでもやっぱり一人でいいから、大事な人を作ってください。……そうですね、顔は別に美人じゃなくてもいいけど、優しくて気立てのいい子がいいです。そして自分に無頓着な貴方の代わりに貴方を大切にしてくれる子。そんな子を見つけたら、貴方はその子を大事に……無理は言いません、貴方なりでいいので大事にしてあげてください"
「それから僕は君に出会って、大事にしたいと思った。まあ僕なりではあるけど、君を大事にしているつもりだよ」
どこか遠くの、眩しいものを見るような瞳をしていた彼が、真っ直ぐに私を見る。
「そっか」
教えてくれてありがとう。
呟けば彼の大きな手が伸びてきて、私の頭をふわりと撫でた。
私の嫌いな、でも彼が褒めてくれたこともある、色素の薄くて癖のある髪。
手を繋ぐのも好きではない彼が、ベッドの中以外で触れてくるなんて珍しい。
突然に変な質問をしてしまったから、彼なりに心配してくれたのかしら。
安心させようとその手を握ってみたら、くっつかないでと払われてしまった。
よかった、いつも通りだ。
彼も、そうして私も。
さっきまでの空気は振り払って、私はいつも通りに彼の横、恋人同士にはちょっと遠い間を空けて歩き出した。
「雲雀さん、今夜は何が食べたいですか?」
「ハンバーグ」
ふふふと笑ったら、彼はちょっとだけ私を見て、またすぐに前に向き直ってしまった。
よかった。
私は彼を見つめて、そうして決意する。
私はこれから先、何があっても彼を大事にしよう。
彼が大事に思って、そうして彼を大事にできなかった誰かのために。