キミの瞳には。~黒バス~
「黒子っちと青峰っちの付き合い方って、わかんねッスわ。」
都心のとある一角のカフェで黄瀬涼太は言った。
「いきなり何を今更・・・分からなくて当然ですよ。だって、
付き合ってませんから。」
黄瀬の向かいに座る黒子テツヤが答える。
大学生の二人は久しぶりに会って、このカフェで過ごしていた。
そんな中でいきなり黄瀬がこの話題を振ってきたのだ。
少しの沈黙の後、黄瀬が口を開いた。
「その傷、殴られたでしょ?」
黄瀬は黒子の大きめなカットバンが貼られた頬を指して言った。
「・・・正確には肘が当たって切れたんです。」
「同じことっしょ。大事にされてるとは思えないッス。」
黄瀬の言葉に黒子はおもむろに目を伏せた。
「僕たちは彼氏彼女じゃないんです。対等に喧嘩だってします。」
「あくまで付き合ってないって言い張るんスね。同棲してるのに。」
黒子の言葉にすかさず黄瀬が言い放った。
「同性でのルームシェアはごく一般的なものだと思っていましたけど。」
「・・・じゃあ、同性同士で雨の中抱き合ったりしてるのは一般的
なんスか?」
今まで無表情だった黒子の顔つきが一気に険しくなる。
「見ていたんですか・・・。」
「まぁね。」
当然と言うように黄瀬は笑う。
険しい顔つきのままの黒子を見つめながら黄瀬は口を開いた。
「俺はさ、別に他人の恋愛にとやかく言うつもりはないんスよ。」
憐れむようなそれでいてどこか寂しそうな視線が黒子に投げかけられる。
「ただ、気になるんスよ。黒子っちは・・・青峰っちのこと、好きなの?」
夕暮れの雨の街の中のその二人は、ただ静かに視線を合わせていた。
片方は何の感情も映さない、疲れ切った瞳で。
もう片方は、静けさの中にどこか悲しさと怒りが入り混じった瞳で。
「・・・好きですよ。」
消え入りそうな声で黒子は呟いた。
「好きですよ。青峰君のことが、誰よりも何よりも。」
煙草を取り出しながらその言葉を聞いた黄瀬は、慣れた手つきで煙草に火を
付けて、一息吸ってからため息のように吐いた。
「全っ然分かんねぇ。ンなこと俺に言ってんじゃねーよ。言う相手が
違うだろ。」
吐き捨てるように言った黄瀬。
黒子は自分の髪を掴むように掻き上げて、顔を俯かせた。
「君相手にこの気持ちを言うだけで、背筋が震える。」
「僕たちは一緒に居ても、お互いに何者にもなれない。」
「そこまで分かっていても、手放せないくらい好きなんです。」
一息に言った黒子の言葉を聞き終わった途端、黄瀬は苛立ったようにテーブルの横に掛けてあった傘を蹴った。
「バカじゃねぇの。」
蹴られた拍子にテーブルの上で倒れたグラスからは、水が涙のように
滴り落ちていた。
二人の瞳にはもう、何も映っていなかった。
作品名:キミの瞳には。~黒バス~ 作家名:みつくろ