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【腐向け】俺用トランキライザー【普独】

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嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!
「俺様の弟なら分かるだろ、ヴェスト。泣き顔じゃない」
嫌だ、行かないでくれ。
兄さんが別たれた国の一方にならなければ生きられないというのなら、兄さんが西になってくれ。
俺が、東になってそいつと行くから。
また貴方を犠牲にして、生きてなどいたくない。
でも、何故、何故貴方は。
「ja」
笑え、俺。
兄さんの命令だ。
泣くことは許されない。
少なくとも今は、笑え。
笑え、笑え!
嗚呼、視界が霞む。霞む視界で兄さんが笑ってくれた。
俺は、ちゃんと出来たのだろうか。
お互い抱き締めることも叶わない錠付きの腕、兄さんは身を翻して、冬の国の後へ続き、
振り返る。
「またな、ヴェスト」
俺は


冷たい壁が西ベルリンを覆った。
ベルリンはもう俺の知らない街だ。
兄さんのいないベルリン、壁が東西を分かつベルリンは、俺の知っている街ではない。
とても、とても寒い。
壁の側にいるとそれだけで凍えそうだ。
指が触れた壁はそう高いものでは無いが、とても冷たい。
この向こうに貴方がいるのに。境界に触れることも許されないというように、指が凍る。
この身が凍ってしまう。
俺を暖めてくれる人は、側にいない。
求める声はもう枯れて、ただ息のような音を天へと放っただけ。

手がとどかない
触れることも許されない
嗚呼、心臓が、疼くように痛い。

『――スト』

よばれて、いる?

――――――――――――

突如、ドイツは覚醒した。
「ヴェスト、ヴェスト!大丈夫か…?」
「ッ………あ、」
声、焦がれた声、こちらにさし伸ばされた手。
ドイツは己からも手を伸ばし、思わずきつく握った。
すぐ側、上体を起こし心配そうにドイツを見るのは紅い目。
「にい、さ」
夢の中別れた、兄のプロイセンだ。
ドイツはそう理解すると瞬時、衝動的に兄を追って体を起こし、抱きすくめた。
泣きそうな、尋常でない様子のドイツにもプロイセンは動じず、弟の体温をただ感じようとするように緩く目を閉じ、ドイツの今や自分より広いだろう背を撫でる。
「……今晩は寝れそうにねぇな」
可哀想になあと一人で呟いて、ドイツには別の言葉を降らせる。
やや乱暴者な所のある普段の調子よりずっと優しく穏やかに、子供に諭すようにだ。
「ヴェスト、大丈夫か?解るか?…今年でもう、壁が無くなってから二十年だ」
落ち着け、落ち着けと自分からも抱き返してやって囁く。
「お前の、小鳥のようにカッコイイお兄様はちゃんとここにいるぜ?もう離れ離れじゃねぇんだ。一緒に暮らしてんだぞ」
だから安心しろ、大丈夫だからと囁き、背や頭を撫で続ける。
二人の体温が混じり合い、一つになってしまうのではと思われるような時間が経ち、やがてプロイセンは耳のすぐ側、息を飲むような気配を感じとった。
「………にい、さん……」
目をぱちぱちさせ、ドイツはようやく現実の世界に戻ってこられた。
はっと、兄を抱きすくめていた腕をほどくと距離を取り、滲む視界に気付いてうっすらと浮かんでいた涙を拭う。
「……すまない、俺はまた……」
今晩三度目、ドイツは申し訳なさそうに謝罪した。
プロイセンは気にした風もなく安心したように笑うと、今度は己から距離を詰めた。
肩口から頭を抱えるように引き寄せ、こちらに体重をかけるように促してやると、普段甘えたがらないドイツにしては珍しく素直に兄へと体重を預ける。
「落ち着いたか?」
訊けば、ああとだけドイツは返してきた。
訊いても大丈夫だろうかと思案した後、プロイセンはゆっくりと訊いた。
「また同じ夢か?」
腕の中、顔を上げないままドイツはくぐもった声で。
「細部は異なるが、同じ具合だ。……兄さんが行ってしまって、一人でこの家に住んだ事や、壁が酷く冷たかった事などを……」
嗚呼、あの頃が弟の中には、何度も夢でうなされる程に辛くこびりついているのかと、プロイセンは眉根を寄せる。
「ごめんな」
辛い思いをさせた、と謝ろうとした言葉は続かず、ドイツによって遮られた。
「謝るのは俺の方だ。俺のせいで兄さんも寝られないだろう」
すまない、ともう一度謝りながら上げられた顔は悲しそうに歪んでいて。
プロイセンはそんな弟を堪らなく可愛いと思う。
寧ろ普段甘えてこないヴェストがたっぷり甘えてくれるのは大歓迎だと思い、口角をつり上げて笑ってやって。
「そんなこと気にすんな。たっぷりお前のこと抱き締めて甘やかしてやれて、俺だって満足してんだから」
言葉に、自分がされている事の気恥ずかしさを改めて自覚したのか、ボッとドイツの顔に朱が上る。
そんな様子もニヨニヨとしっかり見つめて、プロイセンはゆるりと頭を下げた。
触れるだけのキスを施していく。
前髪の下りた額、下がって首筋、恥じらいでうつ向いてしまったのを促して顔を合わせ、頬にと落とし。
ああ、唇はやめとこ。ムラッときちまうと思い直して、瞼に口付けた。
「…寝れそうか?それとも起きとくか?」
訊けば少し躊躇って、
「…もう一度寝てみてもいいだろうか」
勿論、とプロイセンは返し、己が先に横になり、ドイツを誘った。
ドイツはやや笑みを浮かべて。
弟が横になれば、兄の腕が確かに体を包んだ。
弟は嬉しそうに頬を緩め、幸せな暖かさの中、ゆっくりと目を閉じる。
「おやすみ、ヴェスト」
おやすみのキスだと悪戯っぽく笑い、プロイセンがドイツの額にキスを落とせば、ドイツは自分からプロイセンの胸板に頭を沈め。
「……兄さんの腕の中にいると、とても落ち着く」
今晩のヴェストはマジで素直だなと驚きながらも、プロイセンもそれに応え、少しばかりドイツを抱く腕に力を込めてより密着を望んだ。
「俺もだ。ヴェストと一緒にこうしてると、気が休まる」
静かに夜が過ぎていく。
三度の悪夢に疲れきっていたのか、五分も経たない内に静かな寝息が聞こえて来て、プロイセンは安堵した。
どうかこの寝息が、苦しそうな唸りに変わらないようにと願いながら髪をすいてやり。
「いい夢、見ろよな。俺はここにいるから」
結局、それから朝までドイツが悪夢にうなされることは無かった。








(兄さんは)
(ヴェストは)

(俺専用の精神安定剤)