さよならのキスは要らない。~黒バス~
彼とキスをしたのは一度だけだった。
青峰君がバスケのプロを目指すため、渡米するという前の日。
荷造りを青峰君の家で手伝っていた。
多分、僕は寂しくて悲しくてしょうがなかったんだと思う。
青峰君が笑ってバスケをしてくれる。バスケと本気で向き合ってくれている。
そのことを本来なら喜ぶべきなのに、僕はすぐにでも泣いてしまいそうな感情
でいっぱいだった。
そんな感情を表にだしてはいけないと必死だった。
でも、油断してしまったのだろうか。
今思えばあの時の僕は本当に馬鹿だった。
「テツ?」
ふとした瞬間に僕は涙を零してしまっていた。
青峰君は慌てて、僕を抱きしめた。その温もりから離れたくない気持ちが
込み上げてくるのを唇を噛んで堪ようとした。
「ごめん・・・テツ。」
一言呟いた青峰君は僕の唇にそっと口付けた。
この瞬間で僕はまるで思考が止まってしまったんだ。
膝は馬鹿みたいに震えていて、心臓以外の音は失せ。
あぁこれは、ダメだ、と。
薄い唇の皮ごしに僕の心は暴かれてしまう。
こんなの後から思い出すだけ辛くなるのに。
だから、出来るだけ思い出の少ないままで、さよならしようとしたのに。
激しい雨が水底の汚い澱みを巻き上げるように、僕の本音は零れるだろう。
「いかないで。」と。
作品名:さよならのキスは要らない。~黒バス~ 作家名:みつくろ