肌寒い理由
【 肌寒い理由 】
「うぅ〜。寒いです…」
お昼があったかくて油断しましたが、
太陽が沈むと、ぐっと気温が下がってしまい、
少し薄着で出てしまったことに大変後悔しています。
体を抱えるように歩いても、あんまり効果はないようです。
寒いです。とにかく寒いです。
ピュウ〜。
「うぅぅ…」
虚しいうめき声が上げながら、なんとか寮に到着です。
エントランスの自動ドアを開けて、中に入った瞬間、ぽあっと暖かい。
ほっと一息つきつつ、おうちで仕事の続きをしなければなので、
あとひとアレンジ欲しいなと思ってる部分を口ずさみながら、エレベーターのボタンを押す。
ひさびさの嶺二さん新曲ですから、気合が入ります。
それにまだ非公開ですが、嶺二さんの主演ドラマの劇場版のテーマソングです!
日々のレギュラーに加え、劇場版の打ち合わせなどでこの頃の嶺二さんは大変お忙しそうです。
元気なメールは毎日届きますが、時間帯は夜中が多く、
なかなか最近はお会いすることも叶いません。
チンッ。
家の階まで着き、しんっとした空間に外の寒さを思い出し、
そそくさと玄関まで急ぐ。
鍵を取り出して、無機質な開錠音が響き、中に入る。
「ただいまぁ〜…」
はぁ。寒かった。
今度から、ちょっと暖かいからって油断しないようにしなくちゃ。
こんな時に倒れてなんていられないもの。
今日は事務所で遅くまで仕事してしまったので、
もう少しアレンジを考えてから寝ることに決めて、
脱いだ服はソファにかけ、お風呂の準備を始める。
お湯を溜めている間、早速パソコンを取り出し、
嶺二さんに次回会った時に聞いてもらう為、何パターンが作っておこう。
そういえば昨日、今週の木曜日の午後、収録の合間に時間が取れるってメールがきてました。
気に入ってもらえるように、嶺二さんのことを考えて、精一杯頑張ります。
ピピッ。ピピッ。
『お風呂が沸きました』
「ふあっ!」
集中していた所にお風呂が溜まった知らせが響き、びっくりしてしまいました。
自分の声の余韻が消え、静まり返った部屋。
急に冷気が足元から這い上がり、背筋がぞくっとする。
「肌寒い…です」
そういえば帰ってきてすぐ集中してしまったので、暖房もつけずにいたのでした。
自分が呟いたことで、より一層寒さを自覚し、なんだか少し寂しい気持ち。
嶺二さんの傍にいたら、ずーっと心はぽかぽかなのに。
気遣いが上手な人だから、一緒にいるとずっと楽しくて。
愛しくて。
嶺二さんは大人気アイドルなんだから、忙しいのは仕方ない。
夜中に仕事が終わって、私の睡眠の邪魔しないようにメールなのも分かってる。
でも……もう何日も声が聴けなくて、寂しいです。
新曲のデータを保存して、嶺二さんに歌って頂いた曲の音源を思わず開く。
少し夜遅い時間だけど、防音がしっかりした寮だから、大丈夫だよね。
嶺二さんが心から楽しんで、愛嬌たっぷりに歌ってくれた私のデビュー曲。
これをきっかけに私たちがお付き合いをはじめた、大事な曲。
きゅうって胸が締め付けられます。
あの時は想いを聞いただけで、あんなに幸せだったのに。
今は少し会えないだけで…欲張りすぎですね。
ソファに移動して、ふぅ、と大きめに溜息をついて、
少し休んでからお風呂であったまろう…そう思って横になった。
「……ガール、こんなところで寝てると風邪引いちゃうよ〜?」
「ん…」
「ほら、マイガール、起きて!」
「むにゃ…」
体を揺すられて、うっすら目を開けるとぼやっと誰かが上から覗いてる…?
逆光で最初は見えづらかったが、視界がクリアになった瞬間、一気に覚醒した。
「れっ、嶺二さん…っ!!」
「暖房もつけないでこんな所で寝るなんてダメだよ〜?れいちゃんしんぱいっ」
「す、すみません…!寝るつもりはなかったんですけど、少しぼーっとしてたら…」
「ふーん。ボクの歌聴きながら、気持ちよくなって寝ちゃったんだ?」
「へ…?」
ふと耳を澄ませてみると、嶺二さんの曲が延々流れている。
そういえば何回か聞いてからお風呂に入ろうを思っていて、
うとうとしてしまったんだ…!
「わわっ!これはっ、そのっ、あのっえっと…!」
「いつもより収録長引かなかったから、サプライズで逢いに来たらさ!
こ〜んな熱烈な歓迎受けちゃって…れいちゃん、うれしいよ?」
「嶺二さん…」
少し寂しくて嶺二さんの歌を聴いていたなんて、恥ずかしくてとても言えませんっ!
「なになに〜!マイガール、そんなに顔赤くしちゃって!」
「だ、だって…嶺二さんに次会えるの木曜日だと思ってたので心の準備が…!」
「ふふっ。せっかく時間が空いたのに木曜日まで待てると思う?
電話しても出ないからさ、家の明かりがついてたの見た時はホッとしたよ」
「あ、ごめんなさい…全然気付かなかったです」
そういえば携帯はバッグの中に放置していました。
きっと何度かお電話を頂いたんだろうな…申し訳ないことをしました。
「嶺二さん、お疲れのとこ、わざわざご足労頂いてありがとうございます」
「春歌ちゃんの顔見たら、疲れなんて吹っ飛んだよ!」
「ふふ、ありがとうございます。そういえばお風呂沸いてたんでした。
嶺二さん、外寒かったでしょう?いま、また暖めなおしますね…わっ」
すっかり目も覚めたので、お風呂のことを思い出して立ち上がろうとした瞬間、
腕を掴まれ、すとん、とソファに逆戻り。
にっ、と満面笑みの嶺二さんの顔はいらずらっこみたいで可愛らしい顔をして…
「春歌ちゃんもすっごく冷たいよ〜、だから…えいっ」
「わっ!?」
がばっと抱きしめられ、気付いたら嶺二さんの腕の中。
ふわっと香る嶺二さんのシャンプーの匂いに、冷えて固まった体の力が抜けるよう。
「嶺二さん…すぐお風呂温まりますから…」
「え〜?春歌ちゃんが温めてくれていいんだよ〜?」
「私の体も冷えてますしっ!お風呂で疲れを取っていただきたいですしっ!」
「じゃあいっしょに入ってあったまっちゃう?」
「…!」
そんな上目使いで言われたら、ダメなんて言いにくいです…。
「…ずるいです」
「ん?なにが〜?ぼくちんはゴウリテキな話をしただけだよ〜?」
ああ、もう。
そんなにおなかに顔をすりつけないでくださいっ。
嶺二さんが来る前と部屋の中はなにひとつ変わらないのに、
彼が居るだけで、ぽあって体が、心があったかくなる。
反対に、彼が居ないだけで、この部屋は肌寒くなるんだ。
「さぁ〜!明日も早いから、ささっと入って今日はお暇しようかな〜!」
「…嶺二さんっ」
「ん?なんだい、マイガール?」
立ち上がって伸びをしながらお風呂に向かおうとする
嶺二さんのシャツの裾を引っ張って、振り向かせる。
「…今日は寒いので、一緒に居たい…です」
ワガママなのは自覚しているけれど、久しぶりにあったんだもん、少しはいいよね?
恥ずかしすぎて、嶺二さんの顔は見れないけれど。
「んもうっ!マイガール可愛すぎだよっ!!
そんなに可愛くおねだりされちゃ、一晩中ずーっと一緒にいちゃうしかないね!!」
さっきより強い力で抱きしめられて、またあったかくなる。
「うぅ〜。寒いです…」
お昼があったかくて油断しましたが、
太陽が沈むと、ぐっと気温が下がってしまい、
少し薄着で出てしまったことに大変後悔しています。
体を抱えるように歩いても、あんまり効果はないようです。
寒いです。とにかく寒いです。
ピュウ〜。
「うぅぅ…」
虚しいうめき声が上げながら、なんとか寮に到着です。
エントランスの自動ドアを開けて、中に入った瞬間、ぽあっと暖かい。
ほっと一息つきつつ、おうちで仕事の続きをしなければなので、
あとひとアレンジ欲しいなと思ってる部分を口ずさみながら、エレベーターのボタンを押す。
ひさびさの嶺二さん新曲ですから、気合が入ります。
それにまだ非公開ですが、嶺二さんの主演ドラマの劇場版のテーマソングです!
日々のレギュラーに加え、劇場版の打ち合わせなどでこの頃の嶺二さんは大変お忙しそうです。
元気なメールは毎日届きますが、時間帯は夜中が多く、
なかなか最近はお会いすることも叶いません。
チンッ。
家の階まで着き、しんっとした空間に外の寒さを思い出し、
そそくさと玄関まで急ぐ。
鍵を取り出して、無機質な開錠音が響き、中に入る。
「ただいまぁ〜…」
はぁ。寒かった。
今度から、ちょっと暖かいからって油断しないようにしなくちゃ。
こんな時に倒れてなんていられないもの。
今日は事務所で遅くまで仕事してしまったので、
もう少しアレンジを考えてから寝ることに決めて、
脱いだ服はソファにかけ、お風呂の準備を始める。
お湯を溜めている間、早速パソコンを取り出し、
嶺二さんに次回会った時に聞いてもらう為、何パターンが作っておこう。
そういえば昨日、今週の木曜日の午後、収録の合間に時間が取れるってメールがきてました。
気に入ってもらえるように、嶺二さんのことを考えて、精一杯頑張ります。
ピピッ。ピピッ。
『お風呂が沸きました』
「ふあっ!」
集中していた所にお風呂が溜まった知らせが響き、びっくりしてしまいました。
自分の声の余韻が消え、静まり返った部屋。
急に冷気が足元から這い上がり、背筋がぞくっとする。
「肌寒い…です」
そういえば帰ってきてすぐ集中してしまったので、暖房もつけずにいたのでした。
自分が呟いたことで、より一層寒さを自覚し、なんだか少し寂しい気持ち。
嶺二さんの傍にいたら、ずーっと心はぽかぽかなのに。
気遣いが上手な人だから、一緒にいるとずっと楽しくて。
愛しくて。
嶺二さんは大人気アイドルなんだから、忙しいのは仕方ない。
夜中に仕事が終わって、私の睡眠の邪魔しないようにメールなのも分かってる。
でも……もう何日も声が聴けなくて、寂しいです。
新曲のデータを保存して、嶺二さんに歌って頂いた曲の音源を思わず開く。
少し夜遅い時間だけど、防音がしっかりした寮だから、大丈夫だよね。
嶺二さんが心から楽しんで、愛嬌たっぷりに歌ってくれた私のデビュー曲。
これをきっかけに私たちがお付き合いをはじめた、大事な曲。
きゅうって胸が締め付けられます。
あの時は想いを聞いただけで、あんなに幸せだったのに。
今は少し会えないだけで…欲張りすぎですね。
ソファに移動して、ふぅ、と大きめに溜息をついて、
少し休んでからお風呂であったまろう…そう思って横になった。
「……ガール、こんなところで寝てると風邪引いちゃうよ〜?」
「ん…」
「ほら、マイガール、起きて!」
「むにゃ…」
体を揺すられて、うっすら目を開けるとぼやっと誰かが上から覗いてる…?
逆光で最初は見えづらかったが、視界がクリアになった瞬間、一気に覚醒した。
「れっ、嶺二さん…っ!!」
「暖房もつけないでこんな所で寝るなんてダメだよ〜?れいちゃんしんぱいっ」
「す、すみません…!寝るつもりはなかったんですけど、少しぼーっとしてたら…」
「ふーん。ボクの歌聴きながら、気持ちよくなって寝ちゃったんだ?」
「へ…?」
ふと耳を澄ませてみると、嶺二さんの曲が延々流れている。
そういえば何回か聞いてからお風呂に入ろうを思っていて、
うとうとしてしまったんだ…!
「わわっ!これはっ、そのっ、あのっえっと…!」
「いつもより収録長引かなかったから、サプライズで逢いに来たらさ!
こ〜んな熱烈な歓迎受けちゃって…れいちゃん、うれしいよ?」
「嶺二さん…」
少し寂しくて嶺二さんの歌を聴いていたなんて、恥ずかしくてとても言えませんっ!
「なになに〜!マイガール、そんなに顔赤くしちゃって!」
「だ、だって…嶺二さんに次会えるの木曜日だと思ってたので心の準備が…!」
「ふふっ。せっかく時間が空いたのに木曜日まで待てると思う?
電話しても出ないからさ、家の明かりがついてたの見た時はホッとしたよ」
「あ、ごめんなさい…全然気付かなかったです」
そういえば携帯はバッグの中に放置していました。
きっと何度かお電話を頂いたんだろうな…申し訳ないことをしました。
「嶺二さん、お疲れのとこ、わざわざご足労頂いてありがとうございます」
「春歌ちゃんの顔見たら、疲れなんて吹っ飛んだよ!」
「ふふ、ありがとうございます。そういえばお風呂沸いてたんでした。
嶺二さん、外寒かったでしょう?いま、また暖めなおしますね…わっ」
すっかり目も覚めたので、お風呂のことを思い出して立ち上がろうとした瞬間、
腕を掴まれ、すとん、とソファに逆戻り。
にっ、と満面笑みの嶺二さんの顔はいらずらっこみたいで可愛らしい顔をして…
「春歌ちゃんもすっごく冷たいよ〜、だから…えいっ」
「わっ!?」
がばっと抱きしめられ、気付いたら嶺二さんの腕の中。
ふわっと香る嶺二さんのシャンプーの匂いに、冷えて固まった体の力が抜けるよう。
「嶺二さん…すぐお風呂温まりますから…」
「え〜?春歌ちゃんが温めてくれていいんだよ〜?」
「私の体も冷えてますしっ!お風呂で疲れを取っていただきたいですしっ!」
「じゃあいっしょに入ってあったまっちゃう?」
「…!」
そんな上目使いで言われたら、ダメなんて言いにくいです…。
「…ずるいです」
「ん?なにが〜?ぼくちんはゴウリテキな話をしただけだよ〜?」
ああ、もう。
そんなにおなかに顔をすりつけないでくださいっ。
嶺二さんが来る前と部屋の中はなにひとつ変わらないのに、
彼が居るだけで、ぽあって体が、心があったかくなる。
反対に、彼が居ないだけで、この部屋は肌寒くなるんだ。
「さぁ〜!明日も早いから、ささっと入って今日はお暇しようかな〜!」
「…嶺二さんっ」
「ん?なんだい、マイガール?」
立ち上がって伸びをしながらお風呂に向かおうとする
嶺二さんのシャツの裾を引っ張って、振り向かせる。
「…今日は寒いので、一緒に居たい…です」
ワガママなのは自覚しているけれど、久しぶりにあったんだもん、少しはいいよね?
恥ずかしすぎて、嶺二さんの顔は見れないけれど。
「んもうっ!マイガール可愛すぎだよっ!!
そんなに可愛くおねだりされちゃ、一晩中ずーっと一緒にいちゃうしかないね!!」
さっきより強い力で抱きしめられて、またあったかくなる。