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りんごあめ
りんごあめ
novelistID. 54916
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高嶺の花

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惹かれた理由は自分の弱さなのか、それともあなたの強さなのか

「最後の一撃はすごかったじゃねーか、羅漢堂!」
勝利に終わった戦いの後、その高揚感からかいつもに増してテンションの高い鏡磨が羅漢堂の肩を組む。
「そうじゃろう、まかせんしゃい。」
同様にいつもにも増して大声で羅漢堂がそれに応える。
周りの仲間たちも勝利という幸に笑顔がこぼれていた。

そんな輪の中、小さな違和感に気づいたのは咲良だった。
「…凛ちゃん、どうかしたの?まだどこか痛むのかな?」
「えっ…?」
心配された本人である凛は一瞬はっとするもすぐに苦笑いを浮かべる。
「いえ、大丈夫ありんす。…今回はあまり調子が良うなくて皆さんに迷惑をかけてしまいんしたから、少し反省してたんでありんすよ。」
申し訳なさそうにそう言うと、凛はフワリと向きをかえ咲良に背を向ける。
「だから、少し、一人になりとうざんす。」
そのまま輪の中から抜ける凛のその背中はどこか不安そうな、寂しそうな雰囲気を纏っていた。
「凛ちゃん、やっぱ……」
なにか様子がおかしいと後を追おうとした咲良の肩を、誰かが後ろから制止する。
「あっ、虎ちゃん。」
それは最近過去から来たと言う侍、先ほどまで輪の中で騒いでいた虎之丞だった。
「咲良殿、ここは一つ拙者に行かせて欲しいぜよ。凛殿とは時代は違えど同じタイムワープしてきた者同士、気持ちが分かるぜよ。」
優しく、そう優しく微笑んだ虎之丞は咲良の返事も待たずに凛の後を追うため歩き出していた。
(そうだよね、虎ちゃん頼れるし、お願いしよう。…でも)
意気揚々と歩いていく虎之丞の背中を見送る咲良の中に、一抹の不安が渦巻いていた。

(…いた、凛殿。)
少し歩いた瓦礫の中に、凛は座っていた。辺りは壊れている町であるはずなのに、凛のその妖艶な雰囲気からか、あるいは空を見上げる目の輝きからなのか、どこか幻想的に虎之丞の目には映る。
(…少しでも傷つけたら消えてしまいそうな。)
「凛殿。」
一瞬目を奪われたものの、動揺した素振りは見せずに声をかける。
「あら、虎様。こんな所で、どうしたんでありんすか?」
驚きながらも小さく微笑む凛に、再度虎之丞は目を奪われる。
(いやいや、拙者が奪われるのではない。)
小さく首を振り、そんな気持ちを押し込めると虎之丞は凛の隣に腰掛けながら
「凛殿、不安な気持ちがあるなら、拙者が聞くぜよ。」
と、話しかける。
それは、先ほどの咲良を相手にした時のように優しい声色で。
「違う時代から来たと言うのはそれだけで不安な気持ちが大きいもの、しかも凛殿は羅漢堂殿となにか確執がある様子が伺えるぜよ。本当は、不安で誰かに頼りたい、助けてもらいたいと思われてるのではないであろうか?」
そこまで一言で言いきりちらりと隣を目をやり、少し固まったように見える凛の様子に虎之丞はなをも語りかける。
「もし、拙者でよければ凛殿の支えになるぜよ。だから話をしてはござらぬか。」

それは優しい言葉だった。
弱っている者がいればすがりたくなるような…

けれど

「ふふ、虎様は面白いことを言うでありんすなぁ。」
「…えっ。」

突然笑い出した凛に今度こそ虎之丞が動揺を見せる。
よほど可笑しかったのかしばらく顔を下にして笑う凛。ひとしきり笑うと虎之丞の顔をじっと見つめる。
「確かに、違う時代から来たと言うことはわっちの中に不安や寂しさを感じさせます。」
「それに、確かにあん人とは人には簡単に言えないような関係がありんす。」
「ただなぁ、それ、みんな知ってることでありんすよ?」

「……っ」
大きく目を見開く虎之丞を横目に凛は立ち上がりヒラリと正面に立つ。虎之丞は座ったままでいる為自然と見下ろす形で。
「みんな、知ってるで、ありんす。でも、それは口に出さないでいてくれて、その上で心配してくれてるなんし。わっち…プライド高いざんすよ?」
そう言う凛の目に迷いは見られない。

「虎様?不安なのは、頼りたいのは、虎様の方ざんしょ?」

「なっ、違うぜよ。」
それまで黙っていた虎之丞は凛のその言葉に大きく反応する。
「拙者はただ、凛ど…」
「虎様。」
しかし、弁解しようとしたその言葉を優しいながらも反論を許さない声色で凛が諭す。
「虎様、同じタイムワープしてきた者同士、分かるでありんす。どこをみても自分が知らない場所、物、人、不安でありんしょ。しかもいきなり戦禍の中へと行かなくてはならない…誰かに頼りたくなりんしょ。でも侍であり、男である虎様はそう易々と弱さは人に見せられんもの。」

だから、わっちに頼ってもらいたかった、一人だと感じたくなかったんおすなぁ。
最後の一言は聞こえなかった、いや、言わないでいてくれた。虎之丞は焦る気持ちの中でも、凛の心遣いを感じた。

「虎様。」
「はっ、はい。」

なおも言葉を続けようとする凛に、虎之丞はなにを言われるのかと背中に汗をかく。
その姿が今ほどの凛の言葉を肯定していた。

そんな虎之丞に今度はにこりと笑いかけると
「わっちが虎様に頼るんではなく、虎様がわっちを頼るのは、嬉しいでありんすよ?」
そっと虎之丞を抱きしめ背中を擦った。

それは母親が子供するような優しい包容。

(……あぁ、凛殿には勝てぬぜよ。)

惹かれてしまったのは自分だったかと、虎之丞はおとなしく擦られながら目を瞑る。
惹かれたのは、彼女の強さと優しさ。


(まっこと、凛殿は高嶺の花ぜよ。)
作品名:高嶺の花 作家名:りんごあめ