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月だけが知っている

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据え膳食わねば男の恥…と、どこぞの国のことわざってーのか慣用句ってーのかよくわからねえけど、この間どっかでみかけた文言がオレの頭をよぎっていった。ああ、いつも「食う」のはオレじゃなくて、オレはまあ「食われる方」なんだけど。だけど、このロイ・マスタング。ちょっとくらいならオレが食っちまってもいいんじゃねえかななんて思ってしまう。ベッドに横たわって髪をかきあげるくらい良しとしよう。窓から月の光なんかが差し込んで色気倍増なのも許容範囲だ。だけど、おいこら、そこの国軍大佐というより性犯罪者。シャツの前を肌蹴けてんのに一か所だけボタン留めるなんて卑怯者。腹筋とか胸筋とか、その意外に焼けてない肌の色とか引きしまって均整のとれた体つきとか、古傷とか火傷の痕とか見えそうで見えないチラリズム!!臍の窪みとか胸元とか首筋とかっ!!うおおおおおっ、何だこれはチクショウこの犯罪者。上に乗っかっていいか?なあいいよな?いっそ全裸の方がまだマシだ。露出狂って叫んで怒鳴って殴りゃいい。だけど、このロイ・マスタング!!余計な色気を振りまくってんじゃねえぞゴラっ!オレがっ、襲いたくなるだろうっ!!あああ、もう……っ!いっそめちゃくちゃに抱いてくれって叫んでいいか?なあ、いいかっ!!!!!久しぶりにアンタの家にやってきたこのオレ様に何つー仕打ちだ。肌蹴てんのシャツだけじゃねえんだぞ。下げられたファ……ファスナーからちらりと見えるのは……見えるのは……。うわーーーーっ!言えねえっ!清純なオレ様の口からはとてもじゃねえけど言えねぇーーーーっ!く、黒ですか?黒だよな、大佐?って、思わず涎が…じゃねえぜオレっ!ああああああああああああっホントにもうっ!!勘弁してくれよ……っ!!!!!

ちなみにエドワード・エルリック16歳。天才と誉れ高い彼の思考はここまででコンマ1秒ジャストだった。
思考以外の彼の行動を解説するならば、ロイ・マスタングの寝室の扉をノックもぜずに無造作に開けて…その途端に扉に凭れかかるようにうずくまったのであった。
「鋼の?」
驚いたのはロイのほうだった。
ああ、疲れたな。今日はもうシャワーを浴びるのも面倒だ。このまま寝てしまえ。と、テキトウに軍服を脱ぎ捨て、ボタンをはずしファスナーも下げ……。ああ、楽だ。着替えなどもういい、このまま…とリラックスを通り越して怠け者の就寝モードに入った途端にやってきた闖入者、エドワード・エルリックが扉のところでへたり込み悶絶し、こともあろうに壁に頭をゴンゴンゴンゴンと打ちつけているのだから。
まあ、ロイにとってエドワードがいきなり寝室に表れても問題はない。問題があるのは可愛い恋人の頭が壁に何度も激突していることだった。
「鋼の…、頭に瘤でも出来たらどうする。止めなさい」
そのロイの声が聞こえているのか聞こえていないのか。ぐおおおおおおっと雄たけびを上げるエドワードにさすがのロイも眉をひそめ。そうして疲れているのだがな、と嘆息した後、それでも恋人の身体を慮ってエドワードの傍まで足を進め……。
「はーがーねーのー」
耳元でその二つ名を呼んでやったのだ。
すると途端にエドワードの身体はビクンっと雷に打たれたかのように震えあがった。そうしてロイの顔が間近にあることを認識すると、そのままガバっとロイに抱きつき押し倒した。
「は……がねのっ!」
何をするんだとの文句の一つも言いたいところだったか。名を呼ぶことしか出来なかった。いきなり自分めがけて飛び込んできたエドワード爆弾を受け止めることができずに、ゴンっと床に頭をぶつけ視界には星が飛んでいるからだ。
「大佐っ!もっ、オレ……」
我慢できねええええええっと唇にかみつく勢いでキスを仕掛けてきた恋人に、目を白黒したままのロイ・マスタング。


さて、この後はどっちが食って食われたのか。お月さまだけが知っている。



‐ 終 ‐
作品名:月だけが知っている 作家名:ノリヲ