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寝込みを襲う(名取×夏目編)

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……名取さんが寝ている。
いったいおれはどうしたらいいんだろう?
待ち合わせたのは人気の少ない公園だ。まあもうあまり寒くないし。人目につくのが嫌だから。おれと名取さんはこの公園でよく……じゃないか、ごくたまに待ち合わせなんかしたりする。今日はおれは約束の時間より少し遅れて。って言うのは学校の掃除に手間取ったからだけど。あわてて走ってきたんだけど。でもちょっと、いや、かなり待たせてしまうなってそう思って。でも名取さんはおれが遅刻したところで怒ったりはしないだろうけど。でもやっぱり待たせたりはしたくないっていうかその……おれが、ちょっとでも早く名取さんに会いたくて。だから走る。走ってきた。
そしたら、待ちくたびれたってのはないだろうけどやっぱり表の仕事も裏の仕事も忙しいんだろうな。公園のベンチに腰掛けて、腕組みなんかしたまま名取さんは眠ってた。
走って乱れた呼吸を整える。その間に考える。
遅れてすみません。こんなところで寝てたら風邪ひきますよ。起きてください名取さん。ええと、あと何だろう?そんなふうに起こすためのセリフをオレはいろいろいろいろ考えて。
でも、呼吸なんかとっくに整ってるって言うのにオレはそんな頭の中で考えた言葉なんてどれ一つも声に出さないでいて。
……だって、名取さんが無防備に寝ているから。
寝顔なんて見たの初めてで。
なんかこう……薄く開かれた唇から洩れるかすかな寝息とか。
サラサラしてそうな前髪とか。
なんかこう、このままにしておきたいような。
っていうか、その……。ちょっとだけでいいから触れたいような。
おれは名取さんの寝顔見て、見続けて。
そっと手を伸ばして触れようとして。
あ、駄目だ。
見るとか、指で触れるとか。そんなことだけじゃ止まらなくなる。

触れて、みたくなる。
髪に、頬に……唇に。

何考えてんだおれ。寝込みを襲うなんてそんなこと。
浅く息をする唇に、触れてしまいたいなんて思うなんて。

浮かんだ妄想を振り払おうとしても振り払えなくて。
ぶんぶんぶんと頭を振るけど顔が赤くて。

も、どうしようもないからいっそ……とか思ったけどやぱりそれは中止にして。

も、思いっきり大声で。赤い顔誤魔化すくらいの大声で。ついでにぼすっと鉄拳パンチもかまして。「お待たせしました名取さんっ!寝てないで起きてくださいっ!!!!」なんて怒鳴ってみた。



……あああああ、おれの馬鹿。



ー 終 −