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愛を伝える。

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艶やかな漆黒の髪。
黒曜石の瞳。
きめ細やかな肌。
ゆうるりと、弧を描く桜色の唇。
華奢な小さな身体。

何を考えているのか、読めやしない。

初めて中国にあった時にも同じような印象は抱いたものの、口を開けばあーだこうだ騒がしい彼ともどこか違う。
はっきり言えば存在感の薄い、でも、無視できない存在。

気づけばいつもアメリカの影に隠れるように立って、そのくせ英語ができないためアメリカに気押されて苦笑してる。
(なんなら、お兄さんの傍に来なさいよ)




「ご機嫌いかが?小さなマドモアゼル。」
「…私は女性ではありませんし、貴方よりも年上ですが…。」
そんなことは知ってる。
にっこりと笑みを濃くすれば、彼も愛想笑いをして一歩下がった。
お辞儀をしながら「失礼します。」とすぐにその場を去ろうとした彼の手を取った。

「待って下さい、美しい人。」
手を取って、そのままその甲に口付ける。
子供のような小さな手だ。
「僕は、フランスと言います。」
「え、ええ。存じております。イギリスさんから…。」
俺の行動に動揺しつつも、それを隠して日本は続けた。
イギリス、から、ね。・・・それじゃぁきっと俺の印象も悪いだろう。

「イギリスは、僕のことをなんと?」
「・・・あ、愛の伝道師、と。」
日本の頬がうっすらと赤らむ。
なるほど、誰彼かまわず手を出しては愛をささやくナンパな男『愛の伝道師』ね。
「それは光栄ですね。では、その名に違わず貴方に愛をお伝えしたいのですが。」
「…私みたいのにお伝えしても、フランスさんのお時間を無駄にするだけだと思われます。」
それはどういう意味だろうか。
私みたいな地味な男に愛を伝えても俺が損をするということ?
それとも、
どんなに愛を伝えても靡くことは無いということ?
どっちの意味にも取れるのは、わざとだろうか。

「そんな、こうして二人でお話するだけでも今の僕には幸福な時間なのです。」
「貴方に愛を囁くことを許されたのならば、きっと天にも昇る気持ちになれるでしょう。」
大げさな仕草でつらつらと並べた言葉に、日本はふんわりと微笑んだ。
思っていたよりも幼い笑みは意外と攻撃力が高い。
俺は誰にも気づかれないくらい小さく息を飲んだ。
気押された、『愛の伝道師』ともあろうこの俺が。

「甘い言葉はこの朽ち果てた身にはどうも刺激が強すぎます。心臓の鼓動が高鳴っては先ほどから煩くて仕方がありません。」
「どうか、貴方の愛をお伝えしていただくのはまた今度にしていただけませんか?」
「でないと、今にもこの胸の高鳴りに堪え切れず心臓が止まってしまいそうなのです。」

「それでは、失礼します。」

さらさらと穏やかな川の流れのように紡がれた言葉に呆気にとられて、今度は手をつかめなかった。
作品名:愛を伝える。 作家名:阿古屋珠