運命を喰らいたまえ
吐き気がする、自分を蹴りたいと思う。痛めつけて、苦しめて。
思って、だけど、でも、を繰り返して、何もしようがないことに気付いた。
しようがないと気付いて、もう自分は戻れないと気付いた、ほんとにどうもしようがないな、神様。
「なんで、あの時、負けたんでしょーね」
「…運だろ」
運ですかね、と利央が言うのにそーだよと呟いて、バスケットボールを床に向かって投げた。
一度バンと跳ねたボールは、そのまま床にぶつかって転がって行く。
体育館の床はすきだ、けど無駄に響く音は嫌いだ、うるせえと叫びたくなる。
運でなんて、負けてたまるかよ。ちょっと思った。
でも、負けた理由なんてもう、どーだって良いよ正直。
「…最近どうよ、準太」
「だいぶ、良くなりましたよ」
「それは、良かったね」
「うん」
うん、ってお前いまの素だったな。
ほんとに嬉しそうだったからその言葉は飲み込んでやった。許してやろうじゃないの。ちょっとくそ、とか思うけどさ…まあちょっと以上かもしんないけど。
ダンダンと転がって行くバスケットボールを見つめながら、ああなんだかほんともう終わったのかとぼんやりと思う。もう、だいぶ、寒いし、なあ。
「あ、そういえばあ大学合格おめでとうございますー」
「普通それ会ったとき一番に言う話だよな」
「そーなんすかねーなんか嫌だったし」
「…お前まじで俺の受験失敗願ってたのかよこえーな」
「…つうかなんか、一生高校生でいれば良いのにって思ってました」
「……さすがにねえだろ」
「ですよねえ」
ニヒヒと笑いながら利央が言うのに、なんだか唐突に悔しいと思った。
なんだろうね、羨ましいよそれ。
俺にはもうきっとそうやって笑える機会すら残ってないんだ、と思ったらなんだか酷く悔しいと思った。どうしようもなさすぎて、どうしたらいいのか分からない。
「あ、俺そろそろ行かなくちゃあ」
「ああ、練習始まるな」
「慎吾さんそのうち教えに来てくださいよ」
「…そのうちな」
そのうち、と笑って失礼します。と入り口まで歩いて行く利央の後ろ姿を捕まえたいなあ、と思った。
世界はもう寒い、寒くて脳がうまく働かないんだとぼんやり気付いて、もう冬にまでなっていたんだな、と泣きたくなった。
バタンと閉まった扉の音があんまりにも渇いていて、なんだかもう俺だけ残して開かないような気がした。
(いまは寒いから、ただきっと、それだけで。こんな運命、望んじゃなかったんだけど。でも、ただそれだけ。それだけが、死にたいくらいに冷たい。でも、ただそれだけ。)
「…それだけなのに、それしか無かったなんて、寒すぎるよな」
吐いた息がまだ青い。
Grazie.