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ひらひら

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【ひらひら】


枝を四方に大きく広げた桜の木が満開になっていた。

「凄いな…」

思わず感嘆の声をあげたアムロ

「来て正解だっただろう?」

そのアロムの表情を見てご満悦のシャア


晴天に恵まれ、絶好の日和となったこの日。
シャアからの「花見に行こう」という提案に対し、「寒いからイヤだ」とごねるアムロを言葉巧みに連れ出したのは良いが、やはりたまに吹く風は少々冷たい。
アムロの機嫌は下降線を辿っていたが、現地に着いた途端、マフラーに鼻先まで埋めていた彼はその素晴らしい景色に見惚れた。

アムロの瞳に飛び込んできたのは、雲一つない鮮やかな青空を背景に立つ桜。
その淡いピンクの花弁と青色のコントラストが華やかな風情をかもし出していた。

その一方、シャアは簡易テーブルとイスを広げ、持参した酒や肴などを手際よく準備する。
グラスに琥珀色の酒を注ぐとアムロを呼び、二人はイスに座った。

「乾杯」

カチン と、グラスを合わせる二人は、そよそよと風に揺れる桜の枝から舞い散る花びらを見つめていた。

「明日からの雨でこの桜も終いだなと思ったからな。どうしても今日、君を連れて来たかったのだ」
「そうだな。確かに意地はらずに来て良かったよ。とてもキレイだ」

桜から目を離せないでいるアムロを見て、シャアは少し意地悪そうに笑った。

「おや。今日の君はいやに素直だな」
「俺だって感じるままに言う事もあるさ」
「たまにだがな」
「あなたみたいにのべつ巻くなく言わないだけさ」

ようやくシャアの方を見たアムロは、あまりにご機嫌なシャアにちょっとだけ面白くなくなっていた。

「心外だなアムロ。私の言葉はそんなに軽くみられているのか」
「別にそこまで言ってないさ。ただ、あなたの場合はかな〜り多いんだよな」
「君に『愛してる』と告げる事がか?」
「そうゆうこと。朝から晩まで言われ続けてると結構ウザいんだよ」
「それは難しい問題だな。君への思いを胸の内に留めるのは止めにしたのだから」
「それがウザいんだって言うんだよ」

アムロはグイッとグラスを空けると、ボトルを掴み自分の分だけ注ぐ。

「まぁ、それでも今日はこの景色に免じてやるよ」
「お褒めいただき、恭悦至極に存じます」
「うむ。よきにはからえ」

芝居がかったシャアの言い方に合わせて答えると、思わず笑いが零れるアムロ。
それから二人は桜を見ながらのんびりとした時間を過ごした。


酒も肴も平らげ、「そろそろ帰ろうか」とシャアが切りだし、二人で片付け終る頃には、暖かかった太陽はかなり傾いていた。
少し強めの風が吹き、桜の枝から盛大に花弁が舞いあがる。
名残惜しく二人並んで見つめていると

「シャア」

桜吹雪の中、ほんのりと赤く染まる頬と柔らかな微笑みを浮かべたアムロ。

「愛してるよ」

そう言い終わるとシャアの腕を掴み、少し下に引くと彼の身体がちょっと屈む。
すると、アムロの目前にシャアの秀麗な顔が近付き、そのまま唇を重ねた。

「はい、お終い」

そう言って、あっさりと離れたアムロにシャアは恨めしそうな顔をした。

「君はズルいな」
「当たり前だろ。あなたがこのままキスだけでガマンできる筈がないだろう」

胸を張って言いきるアムロに反論できる筈も無いシャアは肩を竦めるしかなかった。

「今度は素面の時にも口説いて欲しいものだな」
「気が向いたらなぁ」

手をひらひらと振るアムロは悪戯が成功した喜びに笑顔が満開で、負け惜しみになる事は分かっていても、つい余分な一言をついてしまったシャアは小さく溜め息をついた。


花弁は二人の回りをひらひらと舞い踊っていた。


終 2015/3/21
作品名:ひらひら 作家名:でびーな