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薄暮れなゐの夕闇に(伏雑/落乱腐向け)

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※ 成長パロ注意


ふふふ、と顔色の悪い子供が愉快そうに白い喉を震わせ笑う。
血色の悪い唇は緩い弧を描いていたけれど、瞳は暗く淀んでいるように見えた。昔からどこか不気味さを秘めた子供ではあったけれど、それは今もなお健在らしい。いや、むしろ齢を重ねた分その不気味さに拍車がかかっているように雑渡には思えた。
子供は侵入者に警戒するでもなく、円座に座ったまま抱えていた骨格標本の手首をとって、かくりかくりと上下させた。
年月を経て少しばかり風化した骨格標本は、子供の薄暗さと相俟って非常に不気味な雰囲気を室内に漂わせていたが、侵入者は慣れているので気に留めない。子供の幽鬼染みた風貌と骨格標本の組み合わせは、さながら百鬼夜行からはぐれた鬼がを思わせたが、雑渡はこの子供が幽鬼や死霊の類ではないことを知っている。この子供がまだ幼い笑みを湛えていた頃から知っているのだから、何処に恐れる必要があるというのか。
医務室を足を踏み入れぐるりと部屋を見渡す。
何をしていたのかと思えば、子供はどうやら骨格標本の手入れをしていたらしかった。広げられた布の上に、蝋燭の灯りを受けてぼんやりと浮き上がる白いものが散乱している。子供は淀みない手つきで骨格標本の骨を器用にばらしてく。あっという間にバラバラにされた骨はどこがどこの部位だか雑渡にはおおよその見当しか付かなかったが、子供はすべて把握しているのだろう。ばらしてまた組み立てる。
子供はことのほかこの骨格標本を気に入っていたから、小さな骨の一つまで間違うことなく組み直すのだろう。愛しげに、ばらした骨格標本(かつての持ち主は愛情をこめてそれを骨格標本のコーちゃんと呼んでいた)の頭蓋骨を持ち上げて、獅子舞の頭部でも扱うように顎の部分をかくかくと打ち鳴らして子供は少しだけ可笑しそうに声をたてて笑った。
悪趣味だなと思ったけれど雑渡はそれを口にはしない。
この子供は生きている人間にはあまり執着せずに、どちらかといえば死体の方に興味を示した。かつての骨格標本の持ちの主が異常なまでに他人の生に執着したのとは真反対に、子供は無機物と化した骨ばかりに執着を示す。
ねぇこなもんさん、と子供が闇に溶けてしまいそうなほどに静かで沈んだ声を出した。ゆらりと蝋燭の灯りが揺れて子供の影をも揺らした。
子供はいつもこんな喋り方をする。抑揚の少ない平坦な声音で感情が読みとりにくい。
うん?と雑渡は勝手に入れた茶を口を布で覆い隠したまま、いつも持ち歩いているストローで飲みながら首を傾げた。
ねぇこなもんさん、ともう一度子供は繰り返すと身を乗り出して雑渡の包帯に指をかけた。そっと包帯の上から頬骨をなぞる。頬骨をなぞって、それから剥き出しになっている目元に触れる。
ざっとさん、と今度はきちんと正しい名称で子供は雑渡の名を呼んだ。
目元の下、焼け爛れた皮膚に爪を立てながら、ざっとさんざっとさんこの肉を剥いでもいいですか?と子供が尋ねる。瞳は笑っているけれど、口調に冗談の色はなかった。
なんで?と雑渡は子供に尋ね返す。
一応命の危機というものに瀕しているはずなのに雑渡が余裕なのは子供の力量が己にまだまだ及ばないと知っているからだ。逃げようと思えばすぐに逃げられる。薬を盛られているが大した分量ではない。多少手足が痺れているくらいだ。
子供は平然と雑渡に毒を盛る。それを知っていて雑渡は子供が用意した茶葉で入れた茶を飲む。雑渡に心酔しているといってもいいあの部下に知れれば、この子供は地獄を見るだろう。だが、この子供ならばその地獄の最中であってもゆるく幽鬼のように笑んでいるような気もしたけれど、実際はどうだかわからない。しかし、もしこの子供が泣き喚くようなことがあったら雑渡はきっと落胆するのだろう。
だって、と子供は雑渡に圧し掛かるようにして包帯に手をかけ、ゆっくりと唇の端を吊り上げ笑う。
だってだってぼくは雑渡さんを気に入っているんです。
そう言いきってにこりと微笑む。その笑みは陰惨さに彩られ、かつての保健委員長の面影はまったくもって子供のうちに探せなかった。慈悲もなければ容赦もないあるのは純粋な探究心と自身の欲望だけ、それでも子供は純粋だった。
幽鬼のような子供、黄昏をその背にふふふと笑う。
それはとてもとても大禍時にふさわしい笑みだった。