さびしんぼう
「どっちに似ても無表情だわね。」
と言っていたけれど、
美羽は二ヶ月になって、
みんなの予想を反して、
にこ~にこ~と
時たま笑うようになった。
まだまだ夜中に授乳が必要で、
すずめは寝不足で疲れていた。
すずめの母が
田舎に父ちゃんを残して
手伝いに来てくれていたが、
一ヶ月ほどで帰ってしまった。
夜中に起きると
大輝も起こしてしまうため、
すずめと美羽だけ
リビングのソファベッドで寝ていた。
リクライニングできるので、
授乳したまま、
しばらく意識をうしなったように
寝てることもあった。
その日も、ソファベッドの背もたれを
少し倒してすずめはもたれかかり、
おっぱいに吸い付いたまま
美羽も寝てしまっていた。
夜中に喉が乾いて起きてきた大輝は、
その状態の二人を見つけ仰天する。
「オイ、オイ!風邪引くぞ。」
「…えっ、あ…」
すずめは慌てて美羽を引きはがし、
そっと横に寝かせベビー布団をかける。
「大丈夫か?」
「あ、うん…泣くんだけど
抱っこも疲れてきたから、
リクライニングだったら
楽だ~と思ったら
意識失ってたよ。」
「危ないから、やっぱり
寝室で寝たら?」
「いや、うん、大丈夫!
大輝が寝られなくなったら
大変だし。」
「風邪ひくだろーがよ。」
「うん、今度から気をつける!」
「そうじゃなくて!!」
大輝がイラッとしたかと思うと、
すずめの前に来てしゃがみ、
授乳後で前がはだけたままの
すずめの胸に
そっと口づける。
「大輝っ?!」
すずめが赤くなる。
「オレが淋しいって言ってんだよ。」
「わかれよ、それくらい。」
「オマエはオレと寝られなくて
淋しくねーのかよ。」
大輝に上目遣いで見つめられ、
ドギマギする。
「えっあっ…へ~~?!」
授乳に必死で
大輝の存在を忘れそうになってた。
「そうだよな、オマエは
美羽を独り占めだもんな。
淋しくなんかねーよな。」
と言って大輝は
スウスウと寝息を立てる
美羽の頬を撫ぜる。
「ごめん、大輝…」
「んだよ。謝んなよ。
オレだってわかってんだよ。
しょうがないって。
でもカヤの外は正直面白くねえんだよ。」
「オレにも父親させろよ。」
大輝は仕事もあるから、
寝不足にさせちゃいけないと
すずめは思っていたので、
大輝の言葉にビックリした。
「でも大輝…寝不足になったら
昼間寝られないんだから困るよ?」
「オマエらがこっちいたら
淋しくて寝られないんだから
どっちにしろ同じだ。」
「え~?!」
父親というより大きい息子だ…
とすずめは思った。
意外にさみしんぼうだなぁ、大輝。
子どもが生まれてから
意外と思うことが
増えた気がする。
いつの間にか美羽が目を醒ましてて、
手足をバタバタさせていた。
大輝がそれに気づき、
美羽を抱き上げる。
「美羽~愛してるぞ。」
と言って美羽の頬にキスをする。
顔がデレデレだ。
そして美羽に対しては、
しょちゅう、カワイイ、愛してる
を連発する。
愛してるなんて、
私にだってめったに言わないのに。
言われたら言われたで
恥ずかしいのだが。
という顔に気づいたのか、
大輝は美羽を抱っこしたまま、
「なんだよ、自分も言って欲しいって?」
と笑う。
「そそそっそんなこと
思ってないし!」
見透かされたようで、
すずめはそっぽを向く。
「なんだよ、思えよ。
つまんねーの。」
「え?」
「なぁ?美羽。
そう思って父さん、
美羽に連発してんのに。」
美羽に頬ずりしながら
大輝はチラッとすずめを見る。
「え~?」
すずめは、そうなの?
とまたビックリした。
「そーなんだよ。」
「ちょっとは思った?」
大輝に聞かれ、
「すごく思った…」
とすずめも素直に答える。
「ん、よろしい。」
と、優しい目で
すずめの頬にもキスをする。
「愛してるから、
オレの横で寝てください。」
スズメは素直な大輝の言葉に
笑ってしまった。
「はい。そうします。」
とすずめは言って、
クスクス笑いながら
三人で寝室に戻った。
それからしばらく、
大輝の職場では、
実験中に立ったまま寝る
大輝の姿が見られたそうだ。