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ダメ。

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忠は放課後になると、急いでランドセルを引っ掴んで隣のクラスに駆け込む。そうしないと蛍と一緒に帰れないからだ。
 いつも一緒に帰りたいのは忠だけなので、忠が迎えに行かないといけない。
 これまで蛍が忠より先に「行くよ」と言ってくれたのは一度きりだ。女子に「一緒に帰ろう」と誘われて、断る口実に引っ張り出されたとき。
 女の子と帰るより俺の方がいいのかと思えば嬉しいような、「そんなときばっかり」と恨みがましいような気持ちになった。
 それでも蛍とは同じバレークラブだし、忠が迎えに行って断られることはない。
 今日も蛍を捕まえて一緒に小学校を出る。
「ねえツッキー、今日クラブないし一緒に遊べる?」
 新しい漫画を買ったから、貸したら喜んでくれるかと思って。クラブの他には習い事もやっていなかったから、大抵いい返事が聞ける。はずだった。
「ダメ。今日は兄ちゃんも部活がオフの日だから一緒に練習する約束なんだ」
「そう…………」
 蛍の兄は高校生でバレー部のエースだった。背も高くて優しくて、蛍の自慢の兄。いつも部活で忙しいから、忠はときどきしか会わない。
 同じ家に暮らす蛍もなかなか遊んでもらう暇がなく、夕方の時間を目いっぱい兄と過ごせる貴重な日に忠の誘いを断るのは当然だった。
 仕方ない。どうせ他の日に毎日のように遊べるんだし。
 納得しようとしている姿がよっぽど落胆して見えたんだろう。蛍が横目で視線をくれた。
「山口も一緒に練習する?」
「えっ、いいの?」
「言っとくけど、遊ぶんじゃなくて練習だから」
「うん、一緒にやる!一緒に練習する!」
 他の誰かだったらこんな風に誘わなかっただろう。それがわかるから即答した。

 蛍の兄は人当たりが良くて忠にも親切だ。
「ひさしぶりだな、忠。レシーブ上達したか?」
 明るく迎えてくれて、サーブやレシーブを見てくれた。おかげでツッキーがちょっと拗ねた顔をしていたぐらいだ。
「兄ちゃん、スパイク見せてよ」
「えー?」
「だって試合は見に来るなっていうし、もうずっと見てないからさ」
 弟にせがまれて困った顔をしたけど、結局は兄が折れた。
「じゃあいいトス上げろよ?」
「うん!」
 本当はトスなんて得意じゃないんだけど、兄に打ってもらえることが嬉しくて一生懸命にトスを上げた。こんなに素直な蛍は兄の前でしか見たことがない。兄ちゃん専用の蛍。小学校ではクールな表面が、兄の前ではボロボロ割れ落ちて、他の子どもみたいな顔をする。
(断ればよかったかも)
 蛍のボールは兄にしか飛んでいかない。高く上がったボールは予定より左に落ちてきたけれど、兄は長い腕を届かせ、力一杯地面に叩きつけた。
「すっげー!」
 あれを自分の体で受けたら痛いだろうな。やっぱり高校生は違う。そんな感想を抱きながら呑気にボールを目で追っていると、ボールは強く跳ねすぎて生け垣の隙間を突き抜け、道路の方へ飛び出してしまった。
「あ、俺拾ってくる」
「忠、ごめんな!」
 生垣を回り込んで道路へ出ると、ボールは車道を越えて対岸にたどり着いていた。車に跳ね飛ばされて見失っていなくて良かった。
 ボールの行方に気を配りながら車道を横切って向こう側の塀にぶち当たったボールを拾い上げる。その背中で名前を呼ばれた。
「山口じゃん」
 クラスメイトだった。そういえば彼もこの地区に住んでいる。
「何してんの?バレー?」
「うん、ツッキーとツッキーの兄ちゃんと練習してるんだ」
 何でもない風に言ったつもりだったけど、自分のセリフで自分がおまけだと再確認した。それは彼も同じだったみたいだ。
「月島の兄ちゃんって高校生だろ?楽しいのかよ」
 高校生でも蛍の兄は優しくて嫌な気持なんか一つもさせないけれど、即答するのにちょっと迷ってしまった。
「うん……楽しいよ?」
「ふーん。あ、そういえばさ、山口タープマンの新刊買った?」
「うちにあるよ」
「じゃあ貸してよ。月島との練習なんかテキトーに切り上げてさ、自転車で家まで行くから」
「でも……」
「いいじゃん。月島だって兄ちゃんいるんだし文句ないって」
 そうかもしれない。元々兄弟水入らずのところへ横入りしたのだ。途中で帰っても困らないだろう。
 ダメ押しに彼が身を乗り出してくる。
「な!」
「ダメ」
 ハッとして車道の向こうを見ると、生け垣のこちら側に蛍が立っていた。大股で車道を渡って、忠の手からボールを取り上げる。
「今日はダメ。明日にして」
 冷たく言い切って一人で戻っていく。
「勝手になんなんだよ。アイツ山口のこと何だと思ってんだ」
「うん」
 元々蛍は愛想がなくて、そのくせ女子には人気がある。そんな日頃の恨みも相まってカチンときたらしい。
「なあ、やっぱ山口んち行こうぜ」
 背中を叩いて促された。忠は、
「ダメ。ごめん」
「なんで笑ってんだよ」
「笑ってないよ。とにかく、ごめん、漫画は明日持ってくるからさ!」
 背を向ける蛍は「ついて来い」なんて言われていないけど、忠がついてこないなんて思ってない。
 忠は友人に手を振ると、急いで道路を横断して蛍に追いつく。そうしないと蛍と一緒に遊べないからだ。
 ほんの数メートルでも蛍が迎えに来たのだから、忠はそれに応えないといけない。
作品名:ダメ。 作家名:3丁目