永久にMessiah
そういって出かけた珀 残った鋭利はふとあいつの枕の下が気になった
というのも最近気づいたのだが、珀は枕の下に何か紙のような物を大事そうにしまっていて、時折取り出してはじっとそれを眺めているのだ
近づいても隠すような素振りはないことから別段秘密にしたいわけでもなさそうだが
ただ、お互い布団に入った寝る前の時間などにしか見ていないので鋭利はそれがなんなのか知らない
「あいつがあんなに大事そうに見てるものって一体何なんだろうな」
お兄さんの写真か?ともおもったが話を聞く限りそんな物は持っていないようだし…
一度気になりはじめるとどんどん興味は膨らんでゆき、つい鋭利は珀の枕元を見た
するとなんと間が悪いことに、枕のしたから紙の端っこが僅かにがはみ出ていた
一度は見ない振りをしたが、やはり気になる
「別に隠してるわけじゃないしな…」
都合のいいことを呟いて鋭利は珀のベッドに近づくと、それを枕の下から引き出した
「…これ…」
出てきたそれは石像の写真だった
背中に羽の生えた石像
頭も腕もないそれは、何故か引きつけられるものがある
「これ…知ってる…」
どれくらい時間がたっただろう
数十分、もしかしたら数分だったかもしれない
何故かその石像の写真から目が離せず鋭利が見つめていたところへ
「何を見ている」
いつの間にか買い出しを終えて菓子でいっぱいの袋を下げた珀がドアの前にたって鋭利を見ていた
「あ、珀…。いつの間に帰って…?」
「さっきからずっといたぞ。あまりにおまえが夢中になっているようだったからしばらく見ていたんだが。気づいたいなかったのか?」
いつもなら人一倍警戒心が強いはずなのに
これほど近くにいながら気がつかなかったことに対して、珀がいつのまにか心許せる相手になっていたのかを改めて感じたと共に
気がつかないほどに夢中になっていたことに驚いた
「その写真…」
「ごめん…勝手に見て…」
今更ながらプライベートを勝手に見てしまったことが申し訳なくなった
「別にかまわない。見られて困るものでもないしな」
そういって買ってきた菓子の袋を自分のベッドに置くと、コートを脱いで腰掛けた
「なぁ珀、この写真て」
「ニケだ」
静かに珀が答える
サモトラケのニケ
そうだ 俺はこれを知っている
どこで見たのかは定かではないが有名な作品であったことは覚えている
きっと本か何かで…
どこだったかな、と鋭利が考える間お互い沈黙が続いた
そして不意に珀が口を開いた
「俺は昔からこの石像が好きだった。
頭も腕もない姿でいながらもこんなにも存在感があるのが俺は不思議だったんだ。」
そういって写真を手に取る
「正面から風を受けているように見えないか。向かい風をうけながらもしっかりと立ち続けている、そんな風に。
チャーチに入ってから今日まで俺たちは色々な任務をこなしてきたが、中には血を浴びることも少なくなかった。
どんなに返り血を浴びても生きる限りはこれからも浴び続けなくてはならない。
その繰り返しが時々嫌になる、でもこれを見ると少し気持ちが軽くなる気がするんだ。」
写真を見つめながら珀はいい終えた
鋭利は何かに縋る珀の姿を見たことがない
だから写真を見つめる珀をみて、こいつも人間なんだな、と確認できた気がして嬉しくなった
らしくないな
そんな言葉も浮かばなくもないが、さっき自分が引きつけられた理由もきっと同じなんだと思う
俺も数え切れないほど血を浴びてきた
自分の血で染まったことだってある
命を使うと書いて使命
俺たちは誰からも救われない存在
「ニケって確か家の守り神だったよな」
鋭利がいう
「ああ、そうだったかもしれない」
「ならその写真のニケは俺たちの守り神だな。
俺たち2人を守ってくれるもう一つの救いだ」
「…そうだな」 しみじみと珀が答える
俺たちは誰からも救われない
戸籍も国籍もない 生きているとすら認められていない俺たちは無意識にいつも救いを求めてる
この守り神に心の中で鋭利は祈った
どうかこれからも俺のメサイアの守り神でいてたください
作品名:永久にMessiah 作家名:さのすけのん