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失敗しても 男の場合

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ピンポーン。

「あ…いらっしゃい。
お帰り?」

つぼみの家生活、二週目。

週末だけの間借りなので、
すずめも大輝も
自分の家という感じではなく、

家に入るとき、
出迎えるときの挨拶に
戸惑っていた。

「ふぅ…」

ソファベッドに腰をかけ、
後ろに倒れこむ大輝。

「? 元気ないね?」

「んん…」

「?」

喋る気もないようで、
すずめはどうしたもんだかと
立っていた。

ふと思いつき、

ソファの後ろに回り込み、
大輝をぎゅっと抱きしめて
「よしよし。
よく頑張りました。」
と大輝の頭を撫でた。


「……何これ。」


大輝は呆然としている。

「えっこの間カレー焦がしたとき
大輝がこうしてくれて
嬉しかったから…」

見当違いのことをしたかと
すずめは慌てる。


「うん…地味に嬉しいな、これ。」

「がんばっても結果が出ないとき
こうしてくれると落ち着くー」

すずめが自分を抱きしめている
腕をとって、その腕に
大輝はキスをした。

「でしょ?だよね?」


喜ぶすずめの顔をみて
大輝は少し元気になった。

大学の実験でうまく結果が出ず、
一からやり直しになったのだ。


「今日は?ご飯作った?
作ったなら、よしよし、
し返すけど。」

「今日はおじさんが作ったの…」

と言ってタッパーにはいった
おかずを温める。

「なんだ。」


「いつも失敗作じゃ
あんまりかと思って。」

すずめが苦笑いをする。

「失敗でも
オマエがオレに
一生懸命っていうのが
嬉しいんだよ。」

「ま、そういう風に
考えてくれるのも
結局嬉しいんだけどな。」

「オレのこと考えてくれたんなら
なんでも嬉しいってことだな。」


「大輝…」

すずめはもう一度大輝をだきしめ、
腕の力をぎゅっと強くした。

「うげ!それは苦しい…」

「あっ!ごめん。」


「ご飯を作ってないなら、
じゃあ、今日は
オマエを食べようかなぁ。」

「えっ」

大輝らしからぬ台詞を聞いて
すずめが真っ赤になる。

「大輝がそんなこと言うなんて…」

「バッ!!冗談だろ?
流せよ。こっちが恥ずかしい!」

「シャワー浴びてくる。」

耳まで真っ赤になった大輝は
風呂場で熱いシャワーを
浴びながら、ガンガン壁に
頭を打ち付けた。

「オレ、マジハズ…」


シャワーからあがった大輝は
まだ耳の方まで赤く、
恥ずかしくて赤いのか
シャワーで熱くて赤いのか
よくわからなかった。

シャワーからあがると、
タッパーのおかずは
ちゃんと皿に盛り付けられて
並べられていた。

「とりあえずいただきます。」

手を合わせて大輝は
食べ始める。

「うん、うまいな。」

「おじさんにどうして料理が
上手なのか聞いたら、
作るの好きだし、美味しいって
喜ぶ顔がみたいからって
言ってた。」

「ふーん。まぁでも、
喜ぶ顔がみたいってのは
わかるな。
オレもオマエが
笑って嬉しそうなほうがいい。」


「私はこうやって
大輝と会えたら嬉しいや。」

すずめの言葉を聞いて
大輝はパタン、と箸を置いて
すずめを抱きしめた。


「えっ大輝?」


「やっぱ、こっち先食う。」


「ええええええっ!」

「待って、まだご飯途中…」


「うるさい。かわいいこと言う
オマエが悪い。」


大輝はすずめの首筋に
キスをしはじめる。

「あっ待ってって…んっ」

「喜ぶ顔見たいんだろ?」

すごくいい顔で笑う大輝を見て

すずめは

「そんな顔するのずるい!」

と赤くなった。


ご飯を再開したときには
すっかり冷めていたという。
作品名:失敗しても 男の場合 作家名:りんりん