待ち合わせ
たくさん待ち合わせをしている人の中で、馬村は改札口の前の柱によりかかり立っていた。
「やっぱ、遅刻か。」
はぁっと軽く溜息をつきながら呟く。
ヘッドフォンから流れるお気に入りの曲も今は頭に入ってこない。
時計を見ると10時半。約束の時間を30分も過ぎている。
携帯にもすずめからの連絡は入っていない。
(何やってんだか。そういえぱ、前ん時も確か遅刻してきたな・・・。)
前は待ち合わせの時間を過ぎても、馬村の誕生日プレゼントを買っていたとしれっと言ってた事を思い出す。思い立ったら即行動タイプの彼女のことだ、今回のもそんなことだろうと気持ちを落ち着かせようとする。
あいつの事だから遅刻してきそうだが、ちゃんと来てくれるのか馬村は少し不安になった。
想いを伝える前に一度出掛けたことはあったが、その時はまだ友達同士で。
だからこうして、恋人になってちゃんと待ち合わせるのは初めてなのだ。
駅構内の人の波を見ながら、馬村は待ち人の事を思う。
程なくして、待ち合わせ場所に現れた彼女は両手にいっぱいの荷物を抱えていた。
「やあやあ、お待たせ。」
そう言って笑う彼女に馬村は、
「おいっ、遅いじゃねーか。ってかその荷物何だよ。」
「あ、これっ。行く途中に魚介のグッズが売ってて、ついつい買ってしまったよ。」と、ガサゴソと袋を漁る。
「はい、馬村にもお土産と。」と、魚介のつまみを渡された。
「やっぱ・・お前は色気より食い気だな。」
あまりにもすずめらしくて自然と笑みがこぼれる。
「つぅーか、連絡ぐらいしろよ。それに今から出掛けんのにこれどうすんだよ。」
自分よりも魚介が好きな彼女への意地悪も込めて、少し苛立ちを滲ませた声を出してみる。
すずめを見やると、「ごめん。」としゅんとしている。そうして、また袋からお詫びにと同じ物をプレゼントしてくる。
「怒ってねーよ。それに2つもいらねーよ。荷物はどっかに預けたりして何とかなんだろ。俺のヤキモチだからそんな顔するな。」
そう言うと、落ち込んでた表情から嬉しそうに笑う彼女がいた。
その笑顔を見て、馬村も笑う。
(何だかんだで、こいつには甘いな…俺は。)
これが惚れた弱みか…と思うが、別に嫌じゃない。むしろ、こいつへの想いは日に日に増している。
すずめにはいつでも笑っていて欲しい。幸せになって欲しい。
幸せにするのは自分でありたい。
もう想いが溢れてる。
最近、もっとあいつに手を伸ばしたいと抑えるのに必死だ。
(ってか、今日もやばい…な。)
荷物の袋に気をとられていて、ちゃんと見た彼女に馬村はうっすら赤くなった。
もともと化粧っ気がないすずめだが、目はぱっちり肌はスベスベ。
ちゃんと化粧をすれば見違える程可愛くなる。
服も白のシフォンのブラウスにミニの花柄のスカート。
先程、色気より食い気と言ったが色気もあるな…と心の中で思う。
クリスマスパーティーの時も雰囲気の違う彼女にドキドキしたが、前は別の誰かの為に綺麗になってる彼女にムカついた。
でも、今回は自分の為に着飾ってくれたのはとても嬉しい。
協力したであろう、すずめの友人3人を思い出し、
(あいつらにやられたって感じだな。嬉しいけど、あんま他の奴らに見せたくねぇ。)
さっきから、チラチラと寄越される男たちの視線に馬村は視線を鋭くする。
それに全く気づいていないすずめに苦笑する。
「今日解体ショーがあるからすごく楽しみなんだよね。今日は魚介づくしだ。」と無邪気にはしゃぐ彼女を見て、これから先もこいつの隣には他の誰かじゃなく自分がいたいと思う。
「じゃ、行くか。」
「うん。」
荷物をすずめから攫い、手を繋ぎ歩き出す。が、まだ人前で手を繋ぐのは照れがある。
照れを隠すように、少し馬村が先を歩きすずめの手を引く。
そんな2人の顔は赤い。
まだ初々しいカップルにすれ違う人が笑みをこぼす。
まだまだ楽しいデートはこれからだ。