後夜祭
「…ちょっと待ってなにそれ。どうした急に」
「誕生日の歌のす!」
「誕生日の?…『お前が悪い』とか言ってたけど」
「でも誕生日の歌のす。友達のバニーボーイくんに教わったのすよ」
「バニー…『ボーイ』…?」
「のす。」
「…お前、人から聞いたことなんでも信じるのやめた方がいいぞ」
「富樫くんもやるのすか?」
「え、俺も?別にいいよ俺は…」
「これは本当は誕生日の人と一緒に歌って踊るのすよ。おれ、富樫くんと一緒にやりたいだろわいよー!」
「えー…」
「えーっと…マラカスはこれしかないから、富樫くんが使っていいのす」
「…お前、黒に黒で名前書いても見えないだろ…」
「そうのすか?」
「ていうかマラカス必須なの?たまたまあったから使ったんじゃないんだ?」
「本当はふたりとも持って、向い合って踊るのす」
「…夜中だし、それはちょっとやめとこうよ。あ、これでいいじゃん。お箸」
「しょうがないのすねー。じゃあ明日のお昼に本番のすよ!」
「明日ってもう俺の誕生日でもなんでもないじゃん」
「まずは、こうやって構えるのす」
「こう?」
「で、祝われる人がこうやって鳴らしてリズム取るのす」
「こうか」
「で、まずは祝う人がこうするのす。『きっほっんってっきっにっは!』でこう」
「うん」
「『お前がわっるっい!』でこうするのす。ここ意外と難しいだろわいよ」
「あぁ、結構早いな」
「で、『絡んで絡んでみそっかすー!』でこうのす」
「ほー」
「で、これと同じ動きを二人で同時にするのす」
「え、俺も?」
「他に誰がいるのすか」
「まぁそうだけど…えーっと、こうか?基本的には」
「あ、ここは祝う人が歌うのす」
「それ先に言えよ」
「あと動きは相手と逆にするのす」
「だからそういうの先に言えって」
「じゃーいくのすよ!『きっほっんってっきっにっは!』『お前がわっるっい!』」
「あ、確かにむずい」
「『恨んで恨んでれっとーかん!』」
「なんだその歌詞」
「で、最後は向い合って一緒に歌いながら踊るのす」
「え、じゃあさっきまでのは?」
「本当はふたりとも前向いて踊るのす」
「誰に見せてんだよ…」
「最後は『きっほっんってっきっにっは!』でお互い向きあって近づくのす」
「このくらいか?」
「『お前がわっるっい!』は同じ動きのす。もちろん鏡みたいに動くのすよ」
「こうだな」
「で、『悶えて悶えてどっきんぐ!?』の『ぐ!?』で手と同じ方に顔向けるのす」
「えーっと…こうか」
「で、祝う人が『おめでとー!』ってマラカスを渡そうとするのす」
「で?」
「祝われる人は『四つは多いわ』って言って受け取らないのす」
「あぁ、その時点で持ってるからな」
「で、終わりのす」
「…え、これで終わり?」
「のす」
「なんだこの中途半端な感じ」
「じゃ、一回通してやってみるのす!」
「おう」
「きっほっんってっきっにっは!」
「あ、ちょっと待って。ここって俺は何してればいいの?」
「ずっと振ってればいいのす。『きっほっんってっきっにっは!』のリズムのす」
「わかった」
「じゃ、改めていくのすよー!きっほっんってっきっにっは!お前がわっるっい!絡んで絡んでみそっかすー!」
「次は俺もか」
「のす。きっほっんってっきっにっは!お前がわっるっい!恨んで恨んでれっとーかん!へい!」
「そのへい!って何」
「きっほっんってっきっにっは!」
「無視か」
『お前がわっるっい!悶えて悶えてどっきんぐ!?』
「おめでとー!」
「四つは多いわ」
「…完璧のす!」
「そうか?」
「じゃ、明日本番のすよ!」
「やんねーよ」
「えーーーーーーーー!!なんでだろわいよー!」
「いや、やんねーよ…それ俺らのじゃないし」
「え?」