香り
「オイ、いつまで
そうしてんだよ。」
馬村の家に遊びに行って、
一緒にDVDを観ていた。
馬村の石けんの匂いが心地よくて、
馬村の肩に頭を乗せて、
すずめは寝そうになっていた。
「あ、ごめん。重かった?」
「いや、そうじゃないけど…」
馬村の顔が赤く染まっている。
「馬村の匂いが気持ちよくて
寝そうだった。」
「は?匂い?!
嗅ぐなよ。そんなもん。」
馬村はさらに頬を紅潮させる。
「それにオマエ、映画の内容
覚えてねぇだろ。」
「あ…うん。
ついウトウトしてた。
馬村アレだね。
睡眠薬みたいだね。」
「なんだそれ。
もう1回観るか?」
「でもたぶん私また寝るかも…」
「馬村…ちょっとそっち行っていい?」
「え。オイ…」
馬村が戸惑ってる間に
すずめはのそりのそりと近づいて
ポスっと馬村の胸に
自分の頭を埋めた。
「だからなんでそんな近づき方…
ゾンビかって…。」
「馬村って石けんの匂いがする。」
「は…石けん?」
「うん。この匂い落ち着く。
好きだなぁ。」
「は?何言って…///」
すずめはそう言ったかと思うと、
またスゥ…と寝息をたて始めた。
「オイ?」
「マジで寝たのか?」
呼びかけても返事がない。
胸にすずめを抱きとめたまま、
ベッドを背もたれにして
馬村は息をひと吐きする。
抱きしめたい衝動にかられながらも、
すずめが寝てる間にそうするのを
馬村は躊躇った。
手をグーにして、
そのままの姿勢で
少しだけ…と、
自分も目を閉じる。
確かに。
すずめからも
シャンプーの香りらしきものがした。
「………」
「オレは全然落ち着かねぇ…」
目を瞑ることもできず、
ドクンドクンと速く鳴る
心臓の音を、すずめに
聞かれはしないかと
馬村は気が気でなかった。
「近すぎ…」
ボソッとつぶやいたとき、
「はっ!寝てたっ!」
やっとすずめが起きて
馬村はホッとした。
このままこの距離で
安心されんのも
複雑だ。
「遅いから送る。」
「え…まだ明るいよ?」
「いいから。家で寝ろよ。」
「ごめん。」
「いや、ごめんはオレのほう…」
「え?」
「なんでもない。」
早く帰さないと、
このまま一緒に居たらヤバそうで。
「帰り、ドラッグストア
寄ってもいい?」
そんな馬村の気持ちにも気付かず、
すずめは呑気なことを言っている。
「別にいいけど。何で?」
「馬村と同じ石けん買う。」
「は?」
「いい匂いだから。」
「同じのじゃなくていいだろ。」
同じにしたら
今みたいに近づいてこなくなるんじゃ…
と馬村は密かに思ったが、
すずめの返事は意外なものだった。
「いつも馬村と一緒にいるみたいだし。」
「え////…」
すずめの言葉に他意はないようで、
殺し文句を発したクセに
平然と前を向いて歩いていて、
内心悶える馬村に気づいていない。
今のセリフが部屋の中だったら
本気でヤバかった…
「早く帰らせてよかった。」
と、馬村はポツリ呟いた。