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女郎花

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小菊、山百合、桔梗にほおずき。
 切り花を並べた中からいくつか拾って束ねて眺め、歌仙兼定は唸った。
「だめ?」
 選ばれなかった一輪の小菊を勝手に短く折って髪に挿した少年が小首を傾げる。彼女のような彼、乱藤四郎は自分の容姿をわかってやっている。可憐だが計算づくなあたりが可憐ではないので歌仙はコメントしなかった。
 代わりに質問に答える。
「何かが足りない」
 彼らが戦場から帰るそこ、本丸は夏の真ん中に差し掛かっていた。いつの夏なのかはわからない。なにしろ彼らは過去の時間を渡り歩いて戦っており、拠点がどの時代のどんな場所に位置するのか、彼らは知らされていなかった。ただ、紅葉の後に雪が降り、雪が解けたら桜が咲き、桜が散ったら暑くなって蝉がうるさいので今は夏なのだ。
 正確な月日はわからないので意味はないのだろうが、歌仙が「そろそろ盆だ」というので盆花を調達してきた。
 鎌を持って、花の選び方はわからないので、とにかく大きく育っているものを刈り取った。ちなみに言い出しっぺの歌仙は花器を探しに涼しい土蔵へ突っ込んでいった。普段はほこり臭いからと行きたがらないので何とも思わず見送ったが、いざ草生い茂る山に入ってみると、どちらが貧乏くじかは考えるまでもなかった。
 乱と一緒に山に送り出された加州清光は庭に戻ってくるまでずっと歌仙の文句を並べ立てていた。
 それでも乱がやったのと同じようにして余りの桔梗を髪にあて、池の水鏡でなかなか似合っていることを確かめるとすっかり機嫌を直して「何が欲しいか言ってみな」と追加注文を促した。
「そうだな、黄色が足りない。背が高いのを組み合わせたらいい塩梅になりそうなんだがね」
「黄色?ボクのここぐらいの背丈のがあったよ。小さな花と葉っぱが沢山ついてるの」
 ちょうど花を挿した髪の結び目が乗った肩のあたりで手を水平に振った。
「加州さんの方にあったよね?」
「ああ、そういえば」
 草の入り込んだ爪に目をやりながら曖昧に頷いた。
「小さな花か。きっと女郎花だ。よし、それを頼むよ」
「おい、また自分は留守番?」
「この花たちの水揚げという大事な仕事があるのでね」
 さっきまで乗り気だったのに、結局こうなるんだ。ブツブツ恨み言をこぼす加州の背中を押しながら乱は思った。

 黄色い花の群生している一帯に踏み込むと、小さな乱は花に埋もれたようになった。
「黄色のお風呂みたい!」
 触ってみると、小花の儚さに反して茎が固く鎌でないと摘めそうになかった。
「加州さぁん」
「わかってるって」
 鎌を一本提げてきた加州が黙々と刈り取って担ぎ上げ、花畑に何の未練もないように背を向けた。暗い色の着物に光のような黄色の花がこぼれ落ちる。
「………」
 連れがさっさと帰ってしまうので残るわけにもいかず、乱も慌てて来た道を戻った。
 歩くたびに加州の背中で光の粒が揺れて、時折ぽろぽろ落ちていく。
「加州さん、この花キライなの?」
 思ったことを素直に尋ねただけだったのだけれど、加州はわざわざ足を止めて嫌そうな顔で振り返った。
「何で」
「だって、あんなに生えてたの知ってたのに、最初採ってこなかったでしょ?あんなにキレイなのにすぐ帰っちゃうし」
「お前、訊きづらいとかないの?」
「聞いちゃいけないことだった?」
 これみよがしにため息をつかれて謝ろうと思ったところで加州が眉間のしわを緩めて歩みを再開した。首の動きでまた花が散った。
「前の主のこと思い出したんだよ」
「あの花で?」
「そう。前の記憶が全部あるわけじゃないから時々何かのきっかけで思い出すことってあるだろう?女郎花、あの人と別れた頃にちょうど咲いてたんだ」
 庭の端で揺れて苔生した暗い池に落ちるのを床の上で見ていた。散々人の命を散らせてきたのに、たった一人の人生の終わりが怖かっただなんて不思議なものだ。人の形で呼び覚まされて、人間ではない存在をいくら斬り捨ててもなんとも思わないのに。
 刀だから、あの人に抜かれなくなって以降は何もしてやれなかった。所詮は使われなければ力にもなれないただのモノだった。弔うことさえもできなかった。

 庭に戻ると壺にいくつかの花が活けてあった。細かな良し悪しの区別はつかないけれど、さすがにきれいにまとまっている。
「ご苦労様だったね。さっそく頂くよ」
 出迎えた歌仙は女郎花の束を広げて手際よく選別し、二輪使って残りは池の端で他の花と一緒に水揚げした。
 その出来栄えを見届けてすぐに出陣支度に向かわねばならなかった。二度も山に入ったおかげで自由な時間がずいぶん削られてしまった。巻き込んだ張本人は今回の編成から外れているのでのんびり花の手直しをしている。
 支度はいつもより手早く済ませた。本当なら爪に草の汁がこびりついたままなんてまっぴらなのだけれど、時間がないから仕方がない。
 出陣用の洋服で縁側を通ると、先刻の壺を片付けた歌仙に呼び止められ、小ぶりな花束を渡された。
「持っていくといい」
「あのさ、オレこれから戦いに行くんだけど?」
「知っているよ。行き先もね」
 今回の目的地は慶長四年。夏の始まり。
「置いて来いって?時代を改変しちゃぁいけない約束だろう」
「すぐに朽ちて消える花ひとつぐらい許されるさ」
 押し付けた花束を黒い装束に抱えた姿を眺めて満足げに頷く。
「光を抱いているみたいだ」
 時代の隙間に黄色い光の粒がぽろぽろとこぼれ落ちた。
作品名:女郎花 作家名:3丁目