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大人の失恋の癒し方

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毎日放課後、
馬村とすずめが帰るのを目にする。

「いやぁ馬村がなぁ。」

「意外な組み合わせですね。」

職員室でも噂のカップルだ。

女っ気のなかった馬村と、
色気より食い気の与謝野が、と、
先生達も面白がって話題にする。

俺はその度、顔は笑うが
胃がキリキリ痛む。

胃が、というより
ここは胸か。

そして決まってこの台詞。

「獅子尾先生も
 生徒に負けずに
 花咲かせましょうよ。」

と、見合いの話をされるのがオチ。


気分じゃないんだって。

気持ちを伝えてスッキリしたはずなのに
穴は開いたままで、
同じ学校の教師と生徒なので、
嫌でも二人の姿を目にしてしまう。

「いいよな、高校生は。
 すぐ前に向けて進めてよ。」

とブツブツ言ってみる。


俺はなんだって毎回毎回
こんなに引きずってしまうのか。


「それはあーだこーだと
 自分を守ってばっかりで
 ちゃんと恋愛してないからでしょ。」

と、つぼみに言われた。

「えぐるね…キミ。」

「穴は見ないふりより
 大きくしたほうが
 早く気づけるかと思って。」

「あっそう。」

「ね?じゃあ、もう一度
 やり直してみる?私と。」

「え…」

「つばめちゃん、間に入れたから、
 もう間違えないんじゃない?」

「何言ってんだよ。
 そんな安易なこと…
 デキマセンよ。」

「ふ…言うと思った。」

つぼみは笑って

「フラれたら、ちょっとは
 気持ち戻るかと期待したのに。」

そう言って、

「じゃあ、行くわ。」

と、出ていった。


もうやり直しなんてできない。

気持ちはとっくに離れているし。

穴を埋めるためにつぼみを使いたくない。


「使っていいのよ。
 最初に開けたのは私だろうしさ。」


次に会った時、その話をしたら、
つぼみがそう言った。


あの時から俺の胸の穴は開いたままなのか?


どうやったら埋まる?


もしかして、つぼみも開いたままなのか?


「そうかもね。」


「じゃなかったら、
 もう一度なんて言わないだろうし。」


「そっ...か。」


「お互いに利用しちゃえばいいんじゃない?」


そういう考え方もあるのかな。


つぼみはそう言いながら、
椅子に座って煙草を吸う俺の前に来て、
俺の唇に自分の唇を寄せてきた。


「どう?埋まりそう?」


「...どうかな。」


俺が答えると、
そのまま、ちゅ、ちゅっ、とつぼみは
ついばむようなキスを続ける。


ふいにすずめの顔が俺の頭をよぎる。


「やっぱ、やめ。」


思わず顔をそむけ、
手でつぼみの体を軽く押した。


「ダメ...か。かわいいね、五月。」


「他の奴のこと考えてとか、できんでしょ。」


「いーじゃん。それでも。」


「本気で言ってんの?」


つぼみがどこまで本気なのかわからない。


「虚しくないですかね。」


「虚しいかもね。」


「じゃあ、なんで。」


「んー。人肌が恋しいから?」


「なんだそれ。」


「私たちは大人だからさ。
 そういう関係もアリだと思うよ?」


「大人...かねぇ。」


また、つぼみは近づいてきて、

今度はまっすぐ俺の目を見てきた。


「また断る?」


「俺が?どうして?」


「嫌そうだから。」


「嫌なわけない。けど。
 自分がどこに行くかわからんでしょ。」


「そういうのも面白いと思うけど。」


「つぼみは旅慣れしてるから。」


「ははっ。」


そう笑ってつぼみはまた俺にキスをした。


俺もそれに返した。


何も考えなくていいくらい、激しく。


「っはぁ...」


苦しくなって唇を離す。


するとつぼみがまた俺を見据えて言った。


「罪悪感ほどつまらないものはないと思うよ。」


「誰に義理立てしなきゃいけないわけでもなし。」


「そういう相手がお互いできたら
 離れればいいんだし。」


そういうものか?


そのまま俺達は昔のように抱き合い、
朝まで過ごした。


朝起きて、裸のまま、煙草を一本吸う。


不思議と罪悪感はなかった。


確かにお互い義理立てする相手なんていない。


浮気にもならない。


でも本気にももうなれない。


「こんな関係でいいの?」


「私がいいよって言ったら納得するの?」


「いや...そういうことじゃなくて。」


「じゃあ彼女になろうか?」


「お互い相手がみつかるまでって?」


「五月。もう一回。」


つぼみが俺の腰に腕をからませてきたので、

俺はつぼみを抱き寄せキスをして、

そのままなだれ込むように求め合った。


何をやってるんだろう。

そう思う自分と、

束の間でも穴が埋まる気がする自分。


肌に触れ合い、
お互いに求め合うと、
少しは違う気がする。


「五月…好きだよ。」

「フッ」

俺は苦笑いをする。

つぼみの言葉には騙されまい、
と構える自分がいて。


すずめの「好き」とは
満たされ具合が違う気がした。

もう比べても仕方ないけど。


「信じてないでしょ?」


「どう信じろと?」


「そうね。信じなくていい。
 昔言えなかった分、
 いい続けるけど。」

「私だってあの二人に
 教えられたこと、あるのよ。」


「え…」


つぼみは舌を絡ませ、
激しく唇を合わせてきた。

休日だった俺達は
久しぶりに一日中裸のまま
したり、ただ一緒に寝たり、
テレビ見たり、あーだこーだと
それに文句をつけたりして過ごした。


「堕落した大人だなぁ。」

自分達の姿を客観的に見て、
どう考えてもそういう感想しか
出てこなかった。

「こんな姿、生徒には見せらんないね。」

「教師だって人間ですけどね。」

「ね、着替えて
 諭吉んとこ行かない?」

「いいけど。何言う気?」

「ヨリ戻したって。」

「…今度は本気で殴られそう。」

「何でよ。問題ないじゃん。」

「やっぱ遊びだったのかぁぁとか
 なんとか言ってきそう。」

「今更どう思われたって
 五月の信用、地に落ちてるから
 いいんじゃない?」

「…それ、よくなくない?」

「とりあえず行こう。」

そう言ってつぼみは服をさっさと着て
煙草を一本吸った。


「ほら、早く。」


ずっとこうやって
つぼみがリードしていく
この微妙な関係は
続いていくのだろうか。

でもそれが今は癒しになってることも
事実なわけで。


「はいはい。」


そう言って俺はTシャツの袖に腕を通した。

作品名:大人の失恋の癒し方 作家名:りんりん