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指の誘惑

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「大佐ってさ、軍服以外はいっつもそんな格好なのか?」

じいいいいっと観察するがごときの視線でエドワードはロイを凝視した。今着用しているオーダーメイドと思われるような品の良いスーツを。告げてやるのは口惜しいとはいえ非常によく似合ってる。ほんの少し細めのネクタイもそれはそれで洒落ていると言ってもいいだろう。しかし……。エドワードはロイのクローゼットを見て、またロイを見て、そうして再度クローゼットへと視線を戻した。
そうこのロイの寝室のクローゼット。ずらりと並んでいるのはほとんどがスーツの類だった。クリーニングの袋に入ったままのシャツ、ジャケットにネクタイ、それから黒のコートに軍服だ。それら衣類の数は確かに多い。そして値段も張るのだろう。が、バリエーションには富んでいない。せいぜいシャツやネクタイの色が白だの青だのベージュだの色とデザインの差がアクセントをつけているだけだった。
肩凝らねえのかなあ?こんな服ばっかりで。
なんとなく眉を寄せてエドワードはクローゼットを漁り続けた。手に取ってみては戻し、また手に取ってを繰り返す。
他の服、ないんかな?もっとこうラフなのとか。普通外できっちりした服着てたとしても家の中くらいはもっとリラックスするような服に着替えるもんじゃねえのかな?それとも軍人の男は皆ロイみたいにきっちりしているとでも言うのだろうか。
よくわからない。リゼンブールでまたはダブリスで知り合いだった大人の男はみな動きやすい服装ばかりをしていたので、ロイほどきっちりとした服に身を包んでいる者は皆無だった。とりあえず、と近所のオジサンが来ていたような服をロイが着ているところを想像する。
……実に似合わない。もう少し対象年齢を下げて検討してやらなければ。そうそう、ダブリスとかでどっかのおにいさんが自慢げに着ていた流行ファッション。……何の冗談だというくらい似合わない。エドワードは寄せた眉をさらに顰めた。
「なあ、大佐。……アンタ、こーゆー軍服とかスーツ以外に似合う服あるのか?」
自身の想像の限界を超したためストレートに尋ねてみれば、ロイもエドワードと同様に眉をよせ、苦虫をつぶしたような顔になる。
「自分に似合う服を着ていればそれでいいだろうっ。それに私はこういうかっちりとした格好が好みなんだ!」
語尾が怒鳴りを含んでいれば、そんな言葉も負け惜しみのようにしか聞こえてこなくて。エドワードはぎゃははははと大声で笑ってやった。
「スーツだけでも似合う服あってよかったなー」
するとロイはいきなり、ふんっとばかりに着ていたジャケットを脱ぎ棄てた。ばさりと軽い音がしてそれはベッドの上に放り出される。
「あーあー、なにも投げなくたっていいだろ。ジャケット脱いでもシャツにネクタイじゃん。きっちりかっちりした服に変化はねえぜ?」
笑い崩れた顔のまま、エドワードは煽るように告げてみた。ロイは笑い続ける恋人をちらりと見やるとおもむろに、していたネクタイを緩め始めた。先ほどジャケットを投げ捨てたのとは異なりゆっくりと、人差し指を結び目にかけ、ほんの少しだけ力を込めて引っ張っていく。丁寧に解かれていくそのネクタイ。緩慢と言っていいほどゆっくりとした些細な動き。伏せられたロイのまなざし。そうしてさらりと垂れ下がるタイを首筋にかけたままで、次にシャツの一番上のボタンを外す。ロイのした動作はたったそれだけ。なのにエドワードの笑いはぴたりと止まった。ロイの指に見入ってしまう。もう一つ、ボタンが外されて、それからロイの漆黒がちらりとエドワードに向けられた。何かを企んでいるかのようなその瞳。それがエドワードを鋭く射ぬく。思わずごくり、とエドワードは喉を鳴らしてしまう。ロイはエドワードから目線をはずさないまま更にゆっくりともう一つボタンを外していった。
単にネクタイを緩めただけ、そうしてシャツのボタンを三つほど外しただけ。動作としてはそれだけだ。何もこんなふうに心臓を高鳴らせる必要はない。そう思ってはみるが、エドワードはロイの指から目が離せない。ロイの指とその目線。それだけでそわそわとした落ち着かない気分にさせられる。
「こうやって、ゆっくりと緩めていくとだね、」
ロイはようやくシュッとネクタイを外して。それを持ったままの指をエドワードの頬に伸ばす。
「君は私に……誘惑されてくれるだろう?」
だからこういう服を着るんだよ。
そんなロイのセリフは負け惜しみか逆襲だとは思ってはみても。耳元にそっと囁かれたテノールとそのネクタイにエドワードは縛られる。
「……ゆ、誘惑って……」
触れられた頬から伝わる欲情。それだけでもう抵抗などは出来もしない。
「それとも『君が欲しい』と、言葉に出す方が好みかな?」
降参するのは癪だけど、誘いかけてきたロイの指に、既に身体は熱かった。けれどこのまま流されるのも非常に悔しいものがある。せめてもの反撃だと、エドワードは頬に寄せられたままのロイの指を乱暴に引き寄せ、ぺろりと舌で舐めてやる。
「どっちでもやること一緒。……さっさとくれば?」
ふっと吐き出されたロイの吐息にもうひとつ誘惑されて。エドワードは大人しく瞳を閉じた。


‐ 終 ‐

作品名:指の誘惑 作家名:ノリヲ