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オダワラアキ
オダワラアキ
novelistID. 53970
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君のことが好きだから①

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ひるなかの流星【君のことが好きだから①】



アルバイト先である水族館での仕事を終えて、帰り際、仲良くしてもらっている先輩に声をかけられた。
「すずめちゃん、今日の飲み会行かないんだって〜?なんか用事でもあるの?」
「私未成年だからお酒飲めないし、たくみ君行くの?」
「うん俺も行くよ〜!すずめちゃんもさ、親睦会みたいな感じだから行こうよ!もちろんお酒は飲んじゃダメだけどさ。ご飯たくさん食べればいいし…お刺身が美味しいお店だって言ってたよ」
「お刺身…」
「ねっ!」


たくみに押し切られる形で、駅前にある居酒屋へ行くことになった。
すずめが、たくみと共に店へ入ると、すでに5人が揃っていて、若干顔が赤くなっている人もいた。

水族館での仕事はシフト制のため、全員が揃うことは無理だが、早番遅番と分けて数人で飲みに行くことがよくあるらしい。
すずめは今まで誘われはしたが、未成年ということで断っていた。
「あ〜すずめちゃんだ!こっちこっち!」
「俺もいまーす!」
すずめはたくみと空いている座敷の手前側に腰を下ろす。
「じゃあもう1回乾杯します!すずめちゃんもグラス持ってね!」
言われるがままウーロン茶の入ったグラスを持ち上げる。
「お疲れ様でした〜かんぱーい!」
「かんぱーい!」

周りがお酒を飲む中、すずめはお刺身や天ぷらを食べることに集中していると、向かい側に座った同僚に声をかけられる。
「すずめちゃんってさ、何歳なんだっけ?」
「今月19になりました。でもあそこで働いてる人ってみんな若いですよね?」
「体動かす仕事だからね〜若く見えるけど、俺なんてもう30よ?」
そう言って笑う同僚は、確かに30にはとても見えない。高校生でも通用しそうだった。
「30か〜もう結婚適齢期なんじゃない?どうなの?その辺?」
話しに入ってきた、女性はすずめが指導を受けている、チームのリーダーだった。年はわからないが、結婚して子どもが2人いるらしい。
「結婚云々の前に彼女がいないよ〜すずめちゃん助けて〜」
飲み会がどういうものかはやっぱりよく分からないが、気心の知れた同僚と話をすることはすずめにとっても楽しいことだった。
「知りませんよ〜自分で探してください」
その時、ポケットに入っていた携帯が震える。
見ると、馬村からの着信だった。
少し後ろに下がって電話を受ける。
「もしもし?馬村?」
『よぉ…ってお前今外か?なんかザワザワしてるけど』
「あ、うん!なんか仕事の人たちと飲み会?してる」
「あれ〜すずめちゃん電話〜?誰からよ〜?」
元々酒が入ってなくても、陽気なたくみが電話中に絡んでくる。
「ちょっ…たくみ君!酔っ払ってる?ひゃはははっちょっと!くすぐらないで!」
『お前…今どこ?』
電話に出た時とはワントーン以上も下がった声で、馬村が聞く。
「え…と、駅前の居酒屋だけど。名前わからないけど水色の看板のとこ。」
「わかった」
なんか、不機嫌だったけどどうしたのだろうと思い落ち着かない。



「電話誰よ〜?そんな早く切っちゃっていいの〜?彼氏からじゃないの」
電話を切ったすずめにたくみが探りを入れてくる。
「そうです!彼氏からです!たくみ君が変なことするから、電話切られちゃったじゃん!」
たくみは悪びれなく、舌をペロッと出す。こういう人なので、憎めないのだ。
仕事は尊敬できる先輩だし、お世話になっているのだが、いかんせんテキトー過ぎるのだ。
すずめは気がついていないが、たくみとしてはすずめが同類と思えるらしい。
それもあってちょくちょく話すようになった。

「すずめちゃんの彼氏どういう人〜?」
彼氏ネタから早く離れたいと思っているのだが、なかなか食いついてきて話題を反らすことが出来ない。
「そういうたくみ君は恋人いないわけ?」
「俺?今いないんだよね〜寂しいなぁ〜。すずめちゃん、よく見ると可愛いよね…。ほら、ほっぺとか赤ちゃんみたい」
そう言いながら、すずめの頬をツンツンしてくるたくみは、すでに立派な酔っ払いだ。

「おい…」
おいとは、失礼な店員だなと思いながら振り返ると、鬼のような形相の噂の彼氏がいた。
「な…なんで!?なんで馬村いるの!?」
「ちょっとあんた…コレに触んなよ。コレ俺のだから」
すずめの質問は完全無視で、そう言ってたくみを牽制しつつ、たくみとすずめの間に無理やり入ってきた。
突然のイケメンの乱入に、同僚たちが一気にざわついた。
「ちょっと!すずめちゃんの彼氏!?超イケメンじゃん!」
一番早く食いついてきたのが、子持ちのチームリーダーだった。
「へぇ〜やるねぇ!彼氏も一緒に飲みなよ!」
一応大人になったのか、馬村はぺこりと頭を下げて腰を下ろした。

「馬村?どうしたの?なんか用事あった?」
電話でもおかしかったのが気になって、心配そうに馬村を見つめる。
「…別に」
すずめとしては、約束のしていない日に思いがけずに馬村と会えたことで、気分は上がりっぱなしなのだが。
「すずめちゃーん!彼氏のことばっかり見てないで、俺たちの顔も見てよ〜」
同僚の言葉に、更に馬村の周りの温度が下がった感じがした。
(なんか…これはヤバイかも?)
「す、すみません〜やっぱり私たち帰りますね!今日約束してたの忘れてて!」
「なんだ〜そうなの?そりゃ彼氏怒るわ!早く2人っきりになりたいもんね〜」
「じゃあ、また仕事で〜お疲れ様です」


「そういうことで…ちょっかいだすなよ」
たくみの耳元で、低い声で囁きその場を離れた。


店を出てしばらくはお互い会話もないまま、歩いていく。
馬村はまだ機嫌が悪いのか、すずめの顔を見ようとはしない。
それでもすずめの歩くスピードに合わせて、ゆっくりと歩いてくれるということは、すずめに対して怒っているわけではないと言うことで。

すずめはふと考えて、馬村の手を後ろから掴むと、一瞬驚いたような気配がしたが、優しく手を握り返してくる。
嬉しくなって、馬村の肩に頭を乗せるように、腕にピッタリとくっついた。
馬村はチラリとすずめを見て大きくため息をつく。
「おまえ…俺の機嫌の取り方うまいよなぁ」
「へっ!?」
駅前の人混みの中で、馬村はかすめるようにキスをした。



②へ続く