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オダワラアキ
オダワラアキ
novelistID. 53970
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君のことが好きだから②

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ひるなかの流星【君のことが好きだから①】の続きです。




「ちょっと〜見られるよ…」
すずめが思わず顔を赤くして抗議する。
「通りすがりの通行人のことなんて、誰も見てねーよ。…それより」
すずめの手を取り、駅から少し離れるとガードレールに座らせた。
そのまま逃げられないように、両手で塞がれる。馬村の顔が近く、今にもキスされそうな角度に、鼓動が早くなる。
「え?」
「飲み会…男多すぎねえ?」
「そう?たまたま今日のシフトがそうだったのかも。女の人も結構いるよ?」
「じゃあ隣にいたおまえに馴れ馴れしいやつは?誰?」
「隣って…たくみ君?なんか年が近いからかな〜仲良いんだ〜。面白い人だよ?」
「へぇ〜楽しそうで何よりだな…たくみ君ね…」
せっかく直りかけた機嫌が、また急降下していく。
「ま…むら?なんか…怒ってる?」
「ああ…怒ってる」
「なんで?」
すずめは、もし馬村とケンカすることがあったならば、その理由は絶対に自分が悪いのだろう、と常々思っている。
当たり前のようにそう思うほど、いつも優しくしてもらっている自覚はあるし、自分が色々なことに鈍感なことが分かっているからだ。


「気に食わないんだよ…」
「…何が?」
「おまえが…、俺の知らないとこで、他の男と一緒にいるのも…。他の男の名前を呼ぶのも…。おまえのこと触るのも。
第一おまえ俺のこと馬村って呼ぶだろ?なんであいつはたくみ君なんだよ?他の奴のことは苗字で呼んでただろ?」
溜まっていたものを吐き出すように、一気にまくし立てると、一呼吸置いて、すずめとおでこ同士をくっ付けた。
「ったく…」


「ね〜馬村…。覚えてる?
高校な時さ…。付き合ってるふりしたことあったでしょ?
その恋人役が私だったから、馬村さ、マニアック趣味の残念な人って言われてたんだよ」
唐突に高校時代の思い出を語り出したすずめの言いたいことが理解できずに、視線だけで先を促した。
「だから…自分で言うのもなんだけど、馬村が心配するほど、私モテないよ?」
その警戒心のなさこそが心配だと、言ってもきっと本人には分からないだろう。
そもそも心配するほどモテないのなら、高校時代あいつがあんなに本気で生徒を落とそうとなんてしないはずだ。

「あとは…まむら…君?」
「なに、馬村君って…それを言うなら大輝君だろ…どっちにしろ微妙だな…」
「え…じゃあ、大輝…?」
「はい…正解。ご褒美は何がいい?」
すずめと目が合うと、誘うように聞いてくる。
すずめがさっきから話半分でしか聞けてないことも、その理由も見抜かれているようだ。
やっぱり馬村に隠し事は出来ない。
「キス…してほしい…」
「それも…正解」
ずっと待っていた唇がやっと重ねられ、愛しい人の背中に腕を回すことができた。
優しく口腔内を愛撫する舌は、深くならないように気をつけているようだった。
外なのだから当たり前のことだが、すずめとしては少し物足りない。
お返しに、すずめからはもっともっとと誘うように、深く口づけを返す。
「おま…こんなとこでしたくなっても、何も出来ねーぞ…。
つーか、さっきキスしたら、見られるとかなんとか言って怒ったくせに」
「しょうがないよ…だって好きな人がこんなに側にいるんだし」
返事の代わりに、今度はすずめから口付けた。

2人がいる場所は、駅から少し離れているせいか、人もまばらで街灯も薄暗い。それが幸いして、長く口付けていても周囲に見られることはなかった。
唇が離れても、すずめは馬村の背中に手を回したまま、肩口に頭を埋めた。
そうすると、馬村が耳元で囁くように話してくれるからだ。
「ね…もしかして…やきもち妬いてた?」
「…今さらか、それ以外ねーだろ。絶対、他の奴に触られんなよ。」
「へへ…嬉しい…」
「何でだよ…」
「だって…飲み会って言えば、忙しくても、心配して会いに来てくれるんでしょ?今日みたいに。」
「嫉妬してでも、会いに来たら…嬉しい?」
「うん…どんな理由でも会えたら嬉しい。ヤキモチも嬉しい。」
「変な奴…」
そう言って微かに笑う声が、すずめの耳元で聞こえた。
「そろそろ帰るか。遅くなったから、送ってく」
「うん。ありがとう」
2人は手を繋ぎながら、触れれば触れるほどに高くなる体温を持て余していた。


自宅までは、電車で10分。
改札の前ですずめが立ち止まる。
「やっぱり…」
すずめが言うより先に、馬村がすずめの手を引いて改札とは逆方向に歩き出す。
「ま、馬村…?」
「ごめん…すげーしたい」

③へ続く