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「ティエ…「わざわざ口に出さなくとも、会話できるくせに。」
ティエリアは俺を責めるように睨みあげた。
「同情のつもりか?」
違う、と喉を出かけた言葉を飲み込む。全否定はできない、と思った。そのつもりはないにしろ、こうしていることそれ自体がティエリアにとっては「同情」なのかもしれない。ただ、だからといって二者択一の、非生産的な答え方をしたくなかった。
「お前の声が…聞きたかった」
指摘されても尚、口を動かすことはやめなかった。深遠なヴェーダの空間が揺らいだ気がした。
深遠。深くて、遠い。
届きそうで、届かない。
「遠い…、んだ」
ティエリアの声が頭に響く。だが、それは言葉ではなく、脳量子波による投げ掛けだった。
「こんなに近くにいるのに、君が遠い」
とっさに広げようとした手を、戻す。伸ばした手が空を切る、という事実はわかりきっていた。ティエリアは俺の指先の動きを追うと、そのまま目線を足元にやり、最後に俺を見つめた。それは、飲み込まれそうなほどの金。
「君を求めてしまったら、僕は」
金色の瞳から、物質化されない涙がこぼれ落ちた。目を背けられなかった。
「僕は、自分の使命さえ…呪いたくなってしまう…!」
そう言ったきり、ティエリアは黙り込んだ。もう俺と目を合わせることすらせず、母なる装置を見上げていた。混沌としたヴェーダの色合いが、一層その不可解さを増した。混ざり合っていく、さまざまな色。それらは弾けたかのように白になった。けして溶け合うことのない、現実世界とこの異空間との境界線が、わからなくなりそうだった。
「待っている」
あくまでも口を動かして言葉を放った。ティエリアが小さく頷く。
声は反響して、やがて闇に溶けた。
【終】