二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

桜の幻想 第四話(薄桜鬼 風間×土方)

INDEX|1ページ/1ページ|

 



あの幻想の夜から何日経ったのだろう。

いや、何週間…何カ月、か。

あの夜以来、俺は一度たりとも奴と会っていない。

…きっと、もう会うことはないだろう。

そう思いながら、屋敷内の窓辺からいつものように外の景色を眺めていた。

スッ、と、目を閉じる。



『ふ、ぁ…風、間ぁ…っ』



瞼の裏に焼きついて離れない、あの夜の奴の姿。

熱のこもった吐息。

俺を呼ぶ声。

―…愛おしい。

この気持ちがここまで大きくなるなど、考えてもいなかった。

奴は今、何をしているのだろう。

どこにいるのだろう。

何一つわからない。

新選組の情報を耳に入れないようにしてきたからだ。

奴らの動きを知ってしまうと、あの男のいるところがわかってしまう。

…土方のもとへ、行きたくなってしまう。

ふうぅ、と、深いため息をついた。



「…またここでしたか」

「っ!?」



ビクン、と、体が跳ねあがる。

勢いよく背後を振り返ると、そこには天霧がたたずんでいた。

俺ともあろう者が、全く気付かずにいた。



「あなたにしては珍しい反応だ。悩み事に集中し過ぎて気配すら感じなかった、と…?」

「…黙れ」



天霧の言っていることが的を射過ぎていて、妙に腹立たしい。

きっと、こいつには全て見透かされているのだろう。



「いいのですか?」

「何がだ」

「………」



沈黙が流れる。

物言いたげな天霧の視線に気づかないふりをして、外を眺め続けた。

何がだ、だなんて。

こいつの言いたいことなんて聞き返さずともわかっているのに。

ただ、言わせたくなかった。

聞きたくなかっただけだ。



「本当に、あなたって人は…」



はぁ、と、天霧のため息が聞こえた。

そして、しっかりと俺を見据え、続ける。



「…薩摩への協力態勢は、もう終いです。我々は薩摩に十分な恩返しをしたでしょう。これ以上の手助けは無用のはず」



バッ、と、天霧に振り返る。

断固として視線を合わせまいと逸らしていた目が合った。



「それから新選組の動きですが、新政府軍に対して勝機はなく、勢力は縮小傾向にあるらしい。そのまま会津と合流後、蝦夷地に向かったようです」



話が淡々と進められていく。

薩摩への援助は終い。

新選組の動き。

蝦夷地。

いっぺんに入ってきた情報が脳内で交錯している。

話が見えない。



「待て、天霧。何が言いたいのだ」



俺が問うと、スッ、と目を細め、天霧は言う。



「…新選組はその蝦夷地を、最後の戦いの場とするそうです。己の背負った『誠』の文字を貫き通すために」



心臓が跳ねる音が、俺だけに聞こえた。

最後の戦い。

勝機のない相手と戦う時に用いる『最後』とは、つまり。



「…『誠』を貫き、その地で果てる、と…?」



武士の誇りを持って果てる。

土方はそこで…蝦夷地を最後に、死ぬ気なのか…。

土方が…死ぬ…。

―…モウ、ニドト、アエナイ…。



「今の話を聞いたうえで、後はあなたの好きにすればいい」



天霧の言葉で意識が現実に帰ってくる。



「…どういう意味だ」



俺が言うと、これまでに一度たりとも見たことのないほど、優しく柔らかな微笑みを見せ、天霧は言った。



「前に一度言ったでしょう。あなたは少し素直になるといいだろう、と」



―…そういうことか。

天霧は最初からこのつもりだったのだ。

『あなたの望むままに行けばいい』

視線を通じて伝わってくる言葉。

心が温まる、とはこのことを指すのだろう。

切実にそう思った。



「…天霧…恩にきる」



天霧は答えずに、温かな視線で俺の目をしっかりと捕え、ゆっくりと頷く。

余計なことは言わない。

そんな心遣いがありがたいと思った。

天霧らしい、素朴な中の大きな優しい心に触れた気がする。





そして、その優しい、柔らかな眼差しに背を押され、俺は駆け出した。



遠く離れた蝦夷地。



土方のもとへ。