二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

病みのち幸せ

INDEX|1ページ/1ページ|

 


 両親が死んだ、何の前触れもなく。一人っ子だったのが、“独り”になってしまった。いつか両親を亡くすのはわかっていた、歳を取れば人間はいつか死ぬ。常識だから分かっていたはずなのに、どうしてこんなに悲しいのだろう。若すぎる死だから? 一人置いて逝かれたから? 違う、俺の知らないところで両親揃って死んだからだ。警察から連絡を受けて地元に帰ってきた俺は、真っ先に銀時の実家へ行き両親の死を知らせた。学生時代仲がよかった銀時のご両親にはなにかと世話になっていて、親同士もそれなりに仲がよかったから、助けを求めたかったのもあるかもしれない。ご両親はお通夜、葬儀の手配を手伝ってくれて、悲しむ暇もない俺の世話までしてくれた。やっと落ち着いた頃、これでもかというくらいの悲しみに襲われて俺はしばらく実家で引きこもっていた。
「…………」
 ふと、銀時に知らせておくと言われた事を思い出す。もしかしたらこっちへ戻ってきて連絡をしてくるかもしれない。今は誰にも会いたくなくて、スマホを水の溜まった湯船に落とした――。







***







「……繋がらねえな」
 お袋から土方の両親が事故で亡くなった知らせを聞いた俺は、数日の休みを取って地元へ帰ってきた。実家へ帰宅するとお袋が出迎えてくれて改めて土方の両親が亡くなった事情を聞いた。本人は実感がわかないのか意外にケロッとしていて、でも葬儀も火葬も終わった途端に悲しみに暮れ今では実家に引きこもっているとか。何とか連絡取って慰めてやれと言われたが携帯が繋がらないんじゃ連絡もとれやしない。
「家に行けばいいじゃない、すぐそこなんだから」
「……引き籠ってんだろ、家に行ったって出てくるわけねえじゃん」
「わかんないじゃない、仲のいい親友のあんたにならちゃんと話してくれるかも」
 その言葉に、俺は学生時代土方と犯した過ちを思い出した。思春期真っ盛りだった俺達は好奇心で一度だけ身体を重ねたことがある。女の身体も知らないガキが、女の身体どころか同じ男の身体を先に知ってしまったことにお互い後悔があったんだろう。忘れたフリをしてから早7年、お互い振り返らずに自分の道を進んできた。今顔を合わせたら思い出してしまうかもしれない、そうなったら俺はうまく喋れるだろうか。それだけが心配だった――。





***





 インターホンの音で目が覚めて、寝ていたことに気づく。何度も何度も鳴らすから段々腹立ってきて蹴り破る勢いで扉を開けた。
「うおっ」
「……え、銀時?」
「よお、ちょっと話いいか?」
 俺の返事も聞かずに、家に上がりこんでくる銀時。慌てて追いかけると銀時は真っ直ぐに和室に向かって閉まっていた襖を開けた。
「おいっ、何なんだよ!」
「……お袋から聞いた、まあ見ての通りなんだがマジでご両親亡くなったんだな」
「なんだよ、慰めに来たってのか? 生憎辛いとか悲しいとか通り越して今すぐ死んで逢いに逝きたいくらいなんだ。ほっといてくれ」
 俺の言葉を無視して、銀時は祭壇に向かい線香に手を伸ばす。蝋燭に灯る火へかざすと燻る煙を見て手で扇ぎ消し香炉に刺して、鈴を一回鳴らしてから手を合わせた。
「…………」
「……突然だったのか」
「突然だよ、知らない番号から電話かかってきて……出たら警察だった。親父の着信履歴から俺の番号を見つけて掛けてきたんだ」
 胸が締め付けられて、目頭が熱くなる。顔を見られたくなくて俯いた。立ちあがっただろう銀時が目の前まで来たのが分かって、目を閉じる。
「我慢すんな、全部吐きだせ」
「っ……」
 抱きしめられて、涙が止まらなくなった。タガが外れて泣きじゃくる俺の頭を撫で、銀時は落ち着くまでずっと一緒にいてくれた。
「落ち着いたか?」
「ん……わり、情けねえ姿見せた」
「情けない事ねえ。親が死んでんだ、二人分の涙だと思えば上等だろ」
「…………」
 銀時の言葉に、何も返せない。真っ当なことを言ってるような、そういう問題じゃないような。なんでかその言葉はしっくり来て、俺は何も言い返さなかった。
「で、これからどうすんだ?」
「どうするって、一人でやって行くしかねえだろ。もう荷物は全部処分したしこれから色々手続きとかあるし……悲しんでる暇なんてないんだけどな」
「……言い方悪いけど、こんなただっ広い家に一人って寂しくねえ? 家事とかやるし俺もここに住まわして」
「はあ? 何言ってんだお前。仕事は?」
「辞めた」
「え、なんで。東京でカメラマンやってんだろ? 十分じゃねえか」
「そういう問題じゃねえんだ。お袋から連絡きたとき、一番最初にお前の事が気になった。まあ、事が事だから精神的な面でも心配してるけど、そんな事よりもお前の身体が心配だ。小説家やってんのは知ってる、俺も土方先生のファンだから」
「……なんでそこまでして、俺の事」
 言いかけて、銀時の顔が近づいてきた。視界がぼやけて、唇に熱を感じる。
「……もう、忘れたフリはよそうぜ。親友の壁なんかこっちからぶち壊してやらあ」
「な、お……おま」
「覚えてんだろ? 七年前、俺達が犯した過ち。初めてなのにあんなに激しく抱けば嫌でも覚えてる、忘れたくても忘れられねえよな」
「ま、待ってくれ……確かにあの時の事は覚えてる。でも、今俺と同じ気持ちであるかなんて」
「同じ気持ちじゃなかったらキスなんかしねえよ、俺だって今の気持ちを認識するのにすげえ時間かかった。気付いてからは今でも両思いだったらなんて女々しいこと考えるようになって……こんな時に仏さんの前で悪いけど、ぶっちゃけ今すぐお前がほしい」
 唇を舐められたことに気づいたのは、少し経ってから。いつの間にかお互い裸で布団に横たわっていて、銀時が隣で煙草を吸ってた。結局お互いの気持ちが同じなのか確かめた気になれなくて、せめて言葉で聞きたいと思った。
「銀」
「ん?」
「……好き」
「うん、俺も好き」
 日付が変わって、5月5日。誕生日おめでとうと一緒にキスが降ってきて、両親を亡くしたばかりなのに、俺は新しい幸せを掴んだ――。
作品名:病みのち幸せ 作家名:秋゜