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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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 私はふと画面右下に目をやった。するとそこには「0」と表示されていた。
「高志、『京都』と『お別れ』してしまうのが今だと言うの?」
「それは、たまたま俺たちが入れたパラメータだとこうなった、ということ。でも、考えられるパラメータの組み合わせは六百万種類ほどあるんだけど、そのうち四百万種類のパラメータの組み合わせだと、今年よりずっと前に二つの宇宙はすれ違ってしまうんだ。また、百万種類ほどの組み合わせは、現在の物理学ではあり得ないとされている数字を含んでいる。残る百万種類の組み合わせで、『お別れ』が一番未来になると予測されるのが三百年後で、一番最近の推測が今年、ということなんだ」
「高志はどう思うの?」
「うーん、何とも言えないけど、最初に各パラメータに俺たちがディスカッションして、一番妥当かな、という数字を入れていった結果が、今のシミュレーションなんだよね」
「何となくわかった」
 これから大切なことを確認しなければ。それが今日、私がここに来た理由だから。
「確認したいんだけど、最後にブリッジが不安定に膜の上をブルブル動いてから消えたわね。この時、横方向だけでなく縦方向にも動いたように見えたけど、それは接続する場所だけでなく時代も変わる、という理解でいいの?」
 高志は私の意図を何となく感じたのか、急に慎重な顔つきになって答えた。
「そのとおりだよ。ただし範囲は小さいと思うよ。位置は半径十?、時間は前後百年というところがせいぜいだと予想している。それ以上大きく動くようだと、それ以前に接続そのものが切れてしまうと思う」
 これが私が確認したかったことのひとつ。十日前に高志からちらっと聞いて以来、ずっと考えていたことだ。もうひとつも確認しなければ。
「わかった。じゃあもうひとつ教えて」
 高志は探るような目のまま、何も答えず私を見つめている。
「このブリッジが大きくブレて消えてしまうとき、こちらから『京都』に行っていた人はどうなるのかしら?」
 高志は喋りたくないことを無理矢理私に喋らされている、と言いたげな顔になった。
 あ、この顔は見覚えがある、と私は思った。中学生の時、友達とケンカして怪我をさせたとき、私に詰問されてケンカの理由を私に白状したときと同じ顔だ。
「だって母さん、重雄は『お前の母親がお前の父親が誰か言わないのは、ほんとは自分にも父親が誰かわからないからだろう』って言ったんだ」
 それがあの時の高志の「白状」だったか。
「基本的には、『調整』と同じことが起きるはずだ。つまり、ゲートが移動する度に、そこにその人も移動することになると思う。場所的にも時間的にもね。ただし、そのまま最後までゲートと一緒に移動して、『お別れ』の時にはこちら側に戻されている可能性もあるけど、どこかで『振り落とされる』可能性もある」
「ゴムひもが切れてしまう、というわけね。それで振り落とされたらどうなるの?」
 高志は首を横に振りながら肩をすくめた。
「どうもこうも、その瞬間からその人は『京都』の住人になるだけ。つまり、振り落とされた後でもう一度ブリッジができて二つの世界が繋がっても、その人にはゲートを認識できないし、もちろんこちらに帰ってくることもできなくなる」
 よし。これだけ聞けば十分だ。
 どう切り出そうかしばらく迷ったが、上手い言い回しを思いつかなかったので、単刀直入に言うことにした。
「高志。私、『京都』に行きたいの」
 高志は怒ったような顔でぶっきらぼうに答えた。
「今は『京都』は立ち入り禁止になっている。もちろん入り口も封鎖されている」
「あなたたち研究者が行き来する入り口が通れるでしょう?」
「そこにだって監視員はいる。関係者以外は通れない」
「それはあなたが何とかしてくれるんじゃないかしら?」
「なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだ」
 遂に高志が怒った。
「母さんが帰ってこれなくなるかもしれないのに、俺がそんな工作をしてまで母さんを向こうに行かせると思ってるのか?」
 私は高志の目をまっすぐ見つめながら被せるように言った。
「そうして欲しいから言ってるの」
「あのな、母さんが何を考えてるのかは想像できるけど、それがどんなに無茶な話かわかってるのか?まず、もし俺たちの予測どおり、『お別れ』が今年だとしても、母さんは『京都』に残れずに、結局こっちに帰ってきてしまうかも知れない」
「それならあなたにとっても好都合じゃないの」
 私の混ぜっ返しに反応せずに高志は続けた。
「次に、もし『京都』に残れたとしても、上手く父さんが生きている時代に落としてもらえる可能性はとても低い」
「それはわかってるわ」
「それに、俺たちの仮定したパラメータが間違っていて、一万年も前の時代とか地球じゃない別の星なんていう、とんでもない時空に飛ばされる可能性だってないわけじゃない」
「それはちょっと困るけど、そこは高志を信じることにするよ」
「知りもしないくせに、そんなに簡単に信じられても・・」
 言葉を失った高志に追い打ちをかけてみる。
「想定される良くない結果だったら、まだあるわよ。もし奇跡が起きて私と同年代の高寿に会えたとしても、高寿は結婚して幸せな家庭を築いていて、私が入り込む余地はないかもしれない。というよりけっこうその可能性は高そうね。さらに、もし独身だったとしても、もう気持ちが変わっているかも知れない。三十年も経ってるしね」
 高志は椅子の中に崩れ落ちるように深く身体を沈めた。
「ならどうして。父さんと会いたいというのが理由なら、バカバカしいほど確率が低い賭けじゃないか」
 私は言葉を選びながら、高志に理解してもらえることを祈ってゆっくり話した。
「あのね。私が向こうに行きたいのは、あなたの父さんとどうしても会いたいから、ではないの」
 この言葉は高志には意外だったようだ。身体を椅子に深く沈めたまま、顔だけを上げて私を向いた。
「もちろん、あなたの父さんにはとても会いたいし、もし奇跡が起きて会えたらこんなに嬉しいことはないよ。でも、会えなくてもそれはそれで意味があるの」
「どういうことだよ」
 そんな話はもうしたくない、と高志の全身が言っている。もちろん私はそれに構わず話を続ける。
「私と高寿はね、それぞれ三十五歳と五歳の時にお互いの命を助けて、二人が二十歳の時に恋人になって別れた。その時は、端と端が結ばれた輪になって繋がって、二人でひとつの命になれたって思えた。でも、十五年前、私が三十五歳の時に五歳の高寿を助けて、運命の輪を完成させたとき、わかった」
「なにが」
「私と高寿は終われないってことが」
 高志は理解できない、という顔をしている。
「わからない、って顔ね。人と人の別れ方っていろいろあるでしょ?自分から相手に愛想を尽かしたり、突然捨てられたり、死に別れたり。それぞれ納得できなかったり理不尽だったりするけど、やがて時間がすべてを流してくれる。でも、私にはそれがないの。二人でひとつの命だというほどの相手がいながら、彼とは永遠に会えないの。会えないけど繋がりもまた切れないの」
「それが向こうに行ってしまうことにどうして繋がるんだよ」