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クリーミィ・アフタヌーン

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 喫茶店のドアがカタンと開いて、テーブルについていた快斗が視線を向けると新一が店内に入ってきたところだった。平日の昼間、人はまばらで、快斗がひらひらと手を振ったのを新一が認め、やってくると向かいの席に腰をおろした。二人の通う高校のちょうど中間地点にあるこの喫茶店は、趣味の似ている二人のお気に入りの場所で、よくここで落ち合うのだ。店内は落ち着いた雰囲気で、コーヒーや紅茶などの飲み物も美味しい。流れているジャズは心地よく読書をするには最適な場所で、一人でもよく来る場所だった。期末試験を終えた新一は、一足先に試験を終えて暇を持て余していた快斗に誘われ、ここで待ち合わせることにした。これを快斗は「デート」と言って楽しんでいたのだが、新一がまったく乗ってくれないからおもしろくない。新一は学校帰りのブレザー姿、快斗は家からそのままきたので私服だった。
「先に頼んでてよかったのに」
「んー、俺だけ先に食べ終わってもつまんないし」
 やってきたウェイトレスに新一はコーヒーとホットサンド、快斗はカフェオレとワッフルを注文する。「お前、そんな甘いもん食べるの」とでも言いたげに新一が怪訝そうな視線を寄越してきたので、快斗はにこりと笑ってみせた。顔かたちは似ているのにこのふたりは、やはりどこかが少しずつ違う。彼らは似ているようで、似ていない。
 しばらくしてコーヒーとカフェオレが彼らのテーブルに運ばれてくる。ソーサーにのせられたミルクと砂糖は使わずに、新一は取っ手を持ってずず、とそのまま口をつける。今度はうへぇ、と快斗が嫌そうな顔をした。ブラックコーヒーも飲めなくはないが、快斗はあまいものが好きだ。自らのカップに砂糖をいれてスプーンでかき混ぜると、まろやかな香りが広がった。
 ふと、快斗の目の前の紙とペンを目にした新一が、何だそれ、と訊ねる。「まさか暗号じゃないだろうな」
「ご名答。ちょっと次の暗号をね」
「…俺の前で作るとは良い度胸じゃねーか」
 手元は見ようとはせずに、新一が答える。快斗はにひひと笑ってから、それらをポケットに仕舞いこんだ。快斗の視線が新一の向こう側に注がれ、残りのオーダーがやってくることを示す。案の定次の瞬間には、お待たせ致しましたという声とともにホットサンドとワッフルがやってきた。焦げ目のついたパンにチーズ、それからシロップとくだもののにおい。ばらばらなのに調和がとれているのは、これがまさしくあの二人だからだ。トレイについてきたウェットティッシュの袋をぴりぴりと破って手を拭いてから、新一は手を伸ばし、快斗はナイフとフォークを持った。だけど快斗の目はホットサンドをとらえていて、しまいには「一切れちょうだい」と言うのだ。ほら、と快斗の皿にわけてやると、嬉々としてそれを頬張った。
「新一もいる?」
「いや、俺はいい。そんな腹空いてねーし」
「そう?」
 咀嚼してごくんと飲みこむ。新一が食べない分も、快斗はこうして食べてくれる。家では新一が自分では作らない食事を、快斗が作ってやる。どちらかがさみしいときは、一緒にいてやる。眠れない夜があれば歌をうたうし、雨が降っていれば傘を持って迎えにいく。こうしてきっと、バランスがくずれることは、永遠にないのだ。
 窓から差し込む日ざしがクリームのようにあまい、午後だった。

20100420
『クリーミィ・アフタヌーン』