遠出でもしようか
すいれんとしても、そういう知識は一応あるわけで、きっとその相手は川澄しかいないとも思ってはいるが、ハッキリと言われたわけでもないのに、自分だけが意識するのはとてつもなく恥ずかしい。
「旅行…っていうか…いや、もちろん旅行は嬉しいっすけど…」
すいれんの旅行という言葉に、川澄は驚いたように真っ赤になって目をそらした。
(私ばっかり…意識してるみたい…恥ずかしい…)
「あのっ、2人で…、ちょっと遠くに出掛ければ…一緒にいられる時間が長くなるかな、とか思って」
変なことは考えてないっすよ、と慌てて真っ赤な顔の前でブンブンと手を振った。
「嬉しい…。川澄くんと、いっぱい一緒にいたい…」
川澄も自分ともっと長く一緒にいたいと思ってくれている、それだけで胸が熱くなって、涙が溢れそうになる。
すいれんは、川澄の背中に顔を寄せると後ろから抱きついた。
「…柴石さん」
背中に伝わるすいれんの体温に、川澄の心臓が一気に跳ね上がる。
「変なこと…考えてないって言ったけど…キス、してもいいっすか?」
前に回された手がピクリと震える。
「嫌とか、絶対に言わないから…聞かないで…」
川澄はゆっくりと振り向くと華奢な身体を抱き締め、触れるだけのキスをした。
何度もついばむようなキスをすると、どちらからともなく、ほんの少し唇を開き、徐々に深くなる口付けにすいれんは頭がぼうっとしてしまう。
「はぁ…っ、ん」
角度を変えて互いの口腔内を舐めるようにキスをすると、室内にはチュッチュッと舌を絡める音と違いの熱い吐息が漏れ聞こえる。
そして、すいれんの身体から力が抜けていく。
「…ん…はぁ」
川澄は、すいれんの喘ぐような吐息と濡れた唇に、理性で何とか抑えていた欲望が熱を帯びていくのが分かった。
身体を密着させているすいれんに、それがバレやしないかと思っているはずなのに、どこかで気が付かれてもいいという思いもあって、口付けながらすいれんの腰をグッと引き寄せた。
「んっ…ん、あっ…」
(これって…なんか、どんどん気持ちよくなってくる…どうしよう)
キスだけで立っていられなくなったすいれんは、震える手で川澄の肩口あたりをギュッと掴む。
川澄もまた、すいれんの腰を強く抱いた。
川澄がこれ以上はマズイ理性ギリギリの所で、チュッと音を立てて唇を離すと、すいれんが熱を帯びた視線を向けてくる。
「もう…おしまい…?」
離れがたくて、潤んだ瞳で見つめると、川澄は嬉しいような困ったような顔をして言った。
「続きは、遠出デートの時…かな…?」
川澄に言われ、すいれんは真っ赤な顔で頷いた。
fin