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わんわんこわん

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 帰る途中に子犬用の餌を買い込み、犬用シャンプーも買った。汚れたままの犬が自宅を歩き回ることと出費を天秤にかけた結果だ。犬を洗うのは当然レオナルドの仕事だ。本人も汚かったので、犬と一緒にシャワールームに放り込んだ。甲高いはしゃぎ声を上げながらシャワールームを泡だらけにしている間、脱衣所に取り残された相棒の音速猿が嫉妬深そうな表情で曇りガラスの扉を見つめていた。
 彼にシャワーを貸すのは初めてではないが、こんなに楽しそうな様子で出てくるのは初めてだ。彼が嬉しそうだと妙な幸福感があって、犬の毛でタオルが一枚ダメになってもすぐに諦めがついた。
 床にプラスチック容器のふたを置いて餌皿にして缶詰を与え、ダイニングテーブルで家政婦が作り置きしてくれた料理を食べる。メニューは久しぶりに食べたくなってリクエストしておいたローストビーフだ。美味い料理をピカピカの自宅で、風呂上がりでほっぺたを赤くした少年と一緒に食べていると心が広くなる。きれいにしてもらった子犬が足にすり寄ってくるのも悪くなかった。よく洗ってもらった彼は白い犬だった。
 食事を終えてソファに移動しても子犬は少年の膝に乗ってご機嫌で、肩の上のソニックがずっと厳しい目を向けていた。新しい動物を飼うときは先住動物との相性が大事だと聞いたことがあるが、下手な人間よりよっぽど賢い猿においてもそれは当てはまるようだ。少年があんまり子犬ばかり構うので、彼の気持ちも少しは理解できたが。
 彼があんまり嬉しそうなので、このままうちで面倒を見るのも悪くないような気がしてきた。俺自身はライブラ同様、明日どうなっているかもわからない身だ。近いうちに死ぬ予定はないにしろ、ひとたび事件が起きれば重傷を負わされ入院して帰宅できないこともある。だけど、その間も家政婦を雇っているから、ついでに犬の世話ぐらい頼めるだろうし、少年に頼んだっていい。むしろ少年に犬の世話を焼きに通ってもらえば俺自身は場所と微々たる餌代を提供するだけだ。なかなかいい案じゃないか。何故最初に思いつかなかった。
 自分の中で話がまとまる頃には、レオナルド少年と犬と猿はソファで眠り込んでいたので、そっと毛布を掛けて明日提案することにした。広いベッドに一人で眠る寝室に引っ込むのがほんの少し、惜しかった。

 朝は家政婦と一緒にやってくる。温かな朝食とカーテンを開けはなった窓から注ぐ朝日が健康的な一日のスタートには不可欠だ。
 合鍵で入ってきてキッチンで支度を整えていた彼女はリビングから聞こえたかわいらしい鳴き声に控えめな歓声を上げた。
「おはよう、ヴェデッド」
「おはようございます、旦那様。こちらはレオナルドさんの新しいお友達で?」
 グズグズ眠り続けていた少年の腹を蹴ってソファを飛び下りた彼がヴェデッドの足にまとわりついて頬ずりした。彼女は気に入られたようだ。
 子犬のキックで目を覚ました少年が、眠いのかどうかわかりづらい糸目をこすりながらヴェデッドにあいさつをして五秒。ゆっくり沈みかけていた顔を上げた。
「そうだ!ヴェデッドさんがいるじゃないですか!」
「はい?」
「ヴェデッドさんちのお子さんたちが猫を欲しがってましたけど、犬じゃダメっすかね」
 朝飯前の突然の質問。彼女は戸惑いがちに、だけど誠実に「犬も好きですよ」と応えた。彼女とレオナルドが出会ったのは、ザップが探していた猫をヴェデッド一家が飼うつもりで拾ったのがきっかけだった。結局猫はザップに引き渡してしまったので、可愛いペットを求めていたヴェデッドの子供たちはお預けを食らっている。
「コイツ、飼ってくれる人を探してるんですけどなかなかみつからなくって。どうっすかね。ヴェデッドさんちなら安心なんすけど……」
 彼女はしゃがみこんでフワフワの子犬を抱き上げる。子犬は丸まった尻尾をパタパタ振って喜びを表現した。
「そうですね。これも何かの縁ですし、子供たちもきっと喜びますわ」
 あまりにあっさり話は決まった。手早く朝の支度を済ませた彼女は善は急げとばかりに子犬のための備品をリストアップして、家族に合わせるべく一度帰宅した。犬用シャンプーと残りの餌は持ち帰ってもらった。
「あー良かった」
「ああ。彼女なら大事にしてくれるだろうし、またすぐ会うことだってできる」
 これ以上ない里親だ。だけど、見送って閉められた玄関扉の前で少年と二人、立ち尽くしてしまった。なんだか寂しくて。
 結局、昨晩中に家で飼う決意を固めたことは言いそびれてしまったし、犬の行き先が決定した今更言うことでもない。すごくいい案だと思ったんだけれど。
 ぽかんとする少年の背中から駆け昇って来たソニックが、「俺がいるだろ」と言いたそうに少年の頬をつつく。
「ああ、ごめん。そうだよな。お前はうちの子だもんな」
 小さな相棒を肩に乗せて笑顔を見せる少年の薄い肩を抱く。
「さあ、冷めないうちに朝食にしよう」
 素直にダイニングに向かう彼の肩を触り続けていたら、わざわざ反対側の肩から移動してきたソニックに親指を引っぺがされた。君も俺も嫉妬に忙しいな。
 猿と喧嘩する自分がおかしくて笑うと、肩の上の攻防を知らない少年がきょとんと見上げてきた。
作品名:わんわんこわん 作家名:3丁目