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別れた道の先

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「悪い、遅なった」
かつての相棒に言いながら、早田が頭を下げて通された部屋に入ると、甲高い嬌声が上がった。
「キャーーーッ! 本物!?」
「小野田くんだけでもすごいのに、Jリーガーと友達なんてすごーい!」
キャアキャア騒ぐ見事に似たような髪型、髪色、服装の女性4人と自分が褒められたわけでもないのに得意気な表情の青年に対し、持ち上げられた当の小野田は早田にしかわからないくらい一瞬、眉をしかめたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻り、
「いや、俺らも少し前に来たばっかりや」
確かに、乾杯した形跡のあるジョッキは並んでいるが、お通し以外の食事はほとんど来ていない。

遡ること2ヶ月前。
中学、そして高校の始めまで、同じチームの攻守の要として肩を並べた小野田からしばらくぶりの連絡を受けた。
いわく、今、大学でチームを組んでいる連中からしつこく合コンに誘われており、何処から聞いたか小野田が今をときめくガンバ大阪の若手、早田誠と知己の仲だということで、早田も呼ぶよう懇願されたとのこと。
「まあ、俺もチームで動いとるから。悪いが1回だけ、な?」
自嘲気味に言われ、合コンはさして好きではなく面倒くさいと思う方でありつつも、何とも言えない気分になり、「何水臭いこと言うとる!」という一喝と共に快諾して現在に至る。

試合自体はオフだったし、小野田の大学と自身のホームのある吹田での集まりだったから、予定通り来れると思っていたらミーティングが思いの外長引いたせいで遅れての到着となった。
店員に声を掛けて中ジョッキを頼むと、それぞれと改めての自己紹介をした。
小野田と同じ大学でチームを組む青年2人と、同じく地元の女子大学に通う女性4人、それに小野田。
6人は名門大学に通う身ではあるが、学業よりもスポーツに身をやつし、モラトリアムを謳歌することなくプロの世界に飛び込んだ早田から見るとフワフワして年齢や学力よりも幼稚な印象を受けた。それとも、かつての相棒が落ち着き過ぎているから、そう見えるだけだろうか?
大勢での会話は和気藹々として楽しく明るい雰囲気ではあったが、話す傍から記憶されない程度の内容でもあった。
相手はおそらく金持ちの子女ばかりだろうし、自分自身はまだまだ駆け出しではあったがプロでもある身、ということで、皆より多めに支払うと、メールアドレスだのSNSのIDの交換だのの要請を先輩達から教わった方法でやんわりと断り、それでも渡される名刺を感謝と共に受け取ると、1人でその場を後にした。

皆から見えない辺りまで歩いたところでメールの着信音がした。小野田からで、『河岸替えて飲もうや。俺ん家の前で合流』とだけあった。
2人共、万博記念公園からさして遠くないエリアに住んでいるが、山田駅ではなく人の通りの比較的少ない小野田のマンションの前を合流点にしたのは、一応有名人の端くれである、早田を気遣ってのことだろう。
程なくしてタクシーが横付けされ、小野田が運転手に長髪の頭を軽く下げながら降りてきた。
「ご苦労さん。あの子らはどうした?」
「カラオケ行く言うから、まだ論文終わらん言うて別れてきた。すまんかったな」
「阿呆。何を謝ることあるか。まあ、楽しい酒やったで」
早田が言うと、小野田は皮肉な笑みを浮かべた。
「どうする? このまま俺ん家で飲んでもいいし、近くに行きつけのバーもあるけど」
「そういえばお前ん家は行ったことないな。酒あるならお前ん家でええよ」
ウィスキーと瓶ビールなら、と言われ、じゃあそれで、と返しつつ屋内に向かう。
セキュリティもしっかりしたマンションの7階にある小野田の部屋は、本に囲まれたフローリングの殺風景なダイニングルームとプライベートルームから成る比較的広めの1DKだった。
小野田が奥の部屋から持ってきたクッションを早田に投げて寄こす。
早田がそれを敷いて床に胡坐を掻くと、小野田は冷蔵庫に向かい、手早く缶詰を火に掛け、その間にチーズとピクルスを皿に盛り、小さな瓶ビールと栓抜きと一緒に持ってきて、お盆ごと床に直置きした。後から箸と温めたオイルサーディンを持ってくるとお盆の隅に置き、早田の斜め位置に腰を下ろした。
「じゃ、仕切り直しってことで。誕生日おめっとさん」
早田が栓を抜いておいたビールを軽く打ち合わせると、そのままラッパ飲みした。
早田は旧友の言葉にハッとしたまま固まった。そういえば、今日は自分の誕生日だった。明日から始まる第2ステージのことで頭がいっぱいで、すっかり忘れていた。
「お、おう、サンキューな。お前、それ知ってて今日……」
「当たり前やろ。男同士で誕生日祝うなんて気色悪いかもしれんけどな。口実でもなけりゃ、お互いなかなか会えんやろ」
小野田はそう言って、よそゆきではない笑みを早田に向けた。
それからは、お互いの近況に始まり、酒が回ってきたこともあり先の合コンについて、前期の試合について等々、大いに盛り上がった。
が、やはり、サッカーの話をしていると、早田はどうしても遠慮がちになってしまう。小野田と数年間会わずにいたのも、それが理由だった。
小野田は、高校1年の時に右足靱帯断裂を経験し、サッカーから退いていた。
それからは元々の知性にて国立大学の医学部に合格し、今は整形外科医になる為、勉強中の身だった。
「そんな顔すんなや。酒が不味なる」
小野田に指摘されてまたハッとする。
「早田、自分で気づいてないかもしれんけどな、お前、俺とサッカーの話してる間、ずっとこんな顔しよるで」
小野田はそう言うと、大袈裟に眉間に皺を寄せた。
「そんなブッサい顔、しとらん」
「してるて!」
小野田はヒヒッと笑うと、キッチンに立ち、氷とグラスとウィスキーのボトルを持ってきた。
「まあ、故障なくあのまんまサッカー続けてたとしても、お前みたいにプロだの日本代表だのにはなれへんかったやろうな」
小野田は氷を入れたグラスに、気持ち多めのウィスキーを注ぎながら呟いた。
「そんなこと」
「そんなことあるわ。でもな、過去はいいねん。今は今で目標あるしな」
「目標?」
「そや。……なるで。チームドクター」
そう言うと、小野田はフィールドに立っていた時のような挑発的な笑みを浮かべた。
「チームドクターて……」
「全日本は無謀かもしれんけどな。まあ、やっぱり、お前のハプニングは近くで見た方がおもろいしな」
からかうように言った後、その為にもまたしばらくはよう会われへんがな、と付け足した。
多感な時期を4年間共にし、道を開く別ったかつての相棒は、新たな道を目指しながら再び同じ道で同じ夢を見ようとしていた。
「阿呆。誰がお前の世話なんかになるかい」
憎まれ口を叩くと、早田は大袈裟に顎を反らしてウイスキーのグラスを勢いよく呷り、酒にむせたように眼尻を拭った。
[end]
作品名:別れた道の先 作家名:坂本 晶