視界にすら
いつも共にいる彼の友人と二人、用などなさそうな路地から出てくるのを見つけてしまったのはきっと僕の不幸だったのだ。
彼らが去った後に覗いた惨状で、朧げだけれど、事態を把握してしまった。そしてあの優しい彼に何があったのだろうかと、全く人格が欠損している事に僕は彼の事しか心配しなかった。
全く暴力の拳を持たない彼だとは思っていない。優しい彼はしかし、強い彼だ。護る拳を振るう事の出来る彼だ。僕が持たないそれを持つ彼に、だからこそ憧れている。
遠くなり、雑踏に紛れ始めた彼らの背中をそれでも見送った。話しかける事など自分には許されない気すらした。
『憧れている』、段階で。彼の隣を護る強さ等自分に無いと知っている。殴られる方がましだった。痛い事は怖かった。
さりとて今追いかけ声をかけて叱るなり、癒しを与えるなりも、自分にはとてもできないのだ。
嗚呼、なんて不幸の階段だったのだろう。
どうして君が僕を見ないのか、わかってしまった。
(それと諦めることとは、別だけれど)
【視界にすら】