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ラボ@ゆっくりのんびり
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Twinkle Little Star

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 各国が集まった会議からの帰りに飛行機に乗った。思いの外会議は長引いてしまい、とっぷりと夜が更けた暗い中を手探りで進むようにロマーノたちを乗せた飛行機は前へ前へ進んでいった。ごおお、とエンジンの震える音が耳に届く。それと同時に、隣で眠るスペインの寝息が小さくロマーノの耳朶を舐めた。
 眼下に広がる光を狭い窓の中から見つめると、まるで星が足下に散らばっているような錯覚を覚えた。ロマーノは読んでいた文庫本から視線を外して、そっと足下に散らばる小さな光の粒を見つめた。
 仕事柄、ロマーノは普段から飛行機に乗ることが多々あった。朝のフライト、昼のフライトなど時間により狭い窓から見える景色は異なったが、ロマーノ個人としては夜のフライトが一番好きだった。元々高いところがそんなに好きではないため、太陽の光が降り注ぐ中で空の旅をするというのは臆病な彼にとってはひどく苦しいものでもあった。
 しかし夜は違う。どちらが上なのか下なのか、自分が空の上にいるのか、あるいは海の底にいるのか、それすらわからないほどの暗闇の中にぽっかり存在しているようにロマーノには思えた。時々、思い出したようにちらちらと輝く星の光や街の灯りは、ロマーノを安堵させた。
 今ロマーノの眼下に広がる光も同じだった。名も知らぬ小さな町の生活を知らせる光の群集はすぐに後ろへと消えていってしまったが、新しい星座を見つけたときの高揚感に似たものをロマーノの心の中に残していった。
 ふう、と息を吐いてその気持ちを落ち着かせようとしたとき、ふいに隣のスペインが小さく身じろいだ。そっとその姿を見つめていると、何度か目を瞬かせてスペインが目を覚ました。


「……あれ、ロマーノ、起きとったん?」


 寝起きで少しだけ掠れた声が小さく問うてくる。ああ、と頷きながらロマーノは読みかけだった文庫本を閉じた。
 機内は眠っている人ばかりでまだ薄暗い。黒い髪の毛と褐色の肌を持つスペインは気を抜くと見えなくなってしまいそうだと思いながらロマーノはスペインに向き直った。


「俺、どれくらい寝とった」

「たぶん二時間ちょっと」

「うわ、結構寝てたんやなあ」

「疲れてたんだろ。どうせ、会議行く直前まで畑いじってたんじゃねえの」

「おお、超能力者やな、ロマーノ」

「手くらい洗ってから来いよ。会議場で見たとき、爪に土、付いてた」


 ロマーノの言葉を受けてしげしげと自分の爪の隙間を眺めだしたスペインがまるで子どものようで、ロマーノは思わず緩く笑った。ロマーノの笑顔に気が付いたスペインもくしゃりと笑みを浮かべながら、「ロマーノは俺のことよく見てくれとるんやなあ」なんてひどく幸せそうな声色で言った。瞬間、ロマーノの頬が少し赤く染まったけれど、薄暗い機内の中ではスペインの視界に届く前に暗闇に飲み込まれて消えた。
 スペインは笑みを湛えたままふわふわの毛布をもう一度肩まで引き上げて、今度は頭を背もたれでなくロマーノの肩に預けた。肩、貸しとって。そう呟いたスペインの声にはもう既に眠気の色がありありと滲んでいた。ロマーノが肯定も否定もし終える前にスペインの寝息がまた浮かぶ。子守歌のように小さく、けれどひどく安心する旋律そのものだった。
 この状態では本を読むことも窓に身体を寄せて地上を見つめることもかなわない。いや、しようと思えば出来るのだろうけれど、少しでも身動きをするとスペインが目覚めてしまいそうで、ロマーノはそれだけを恐れていた。
 だからロマーノに出来ることはたった一つだけだった。肩の上に乗ったスペインの頭に、自分の頭を寄せる。こつん、と肌と肌が触れ合った瞬間、スペインの髪の毛の匂いがロマーノの鼻腔をくすぐった。それを吸い込んでいくにつれて血液に溶けて身体中を巡っていくようだった。
 目を閉じる。
 息をひとつするたびに、ロマーノの意識は階段を一段一段降りていくように、ゆっくりと落ちていった。
 ふたりを乗せた飛行機は、またひとつ、小さな町を通り過ぎていった。