二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

雨の日に

INDEX|1ページ/1ページ|

 







ぽたりぽたりと傘の先から留まることなく落ちる雫は、地面に落ちては小さく跳ね返り、足元を濡らす。
昼過ぎから降り続く雨に、シュミットは溜め息を吐いた。
嫌いというわけでもないが、好きではないのだ、雨は。
歩けば撥ねた泥で汚れるし、外に出るにも傘という余分な持ち物は増えるし、屋外でできる練習も限られてくる。
自由な行動を制限されているようでいい気がしない、そんなことを言えば、幼馴染みは、あなたらしいですねと笑っていた。
彼は雨が嫌いではないそうだ。
緑の葉が濡れる様子だとか、水面に落る波紋だとかがどこか艶めいてきれいだからと言っていた。
そう、彼に言われればそう思えないこともないのだが、

「………」

傘越しに見上げて、止めどなく振り続ける無数の雫には、やはりいい気はしないのだった。





そうして急ぎ足で宿舎に向かう途中だった。
外歩きもし辛いこんな日は、さっさと部屋に戻ってゆっくりとするに限る。
少し体も冷えてきたし、何か温かいものでも入れて、と今後の予定を頭の中で組み立てる。
温かいものは、幼馴染の入れるコーヒーだったら最高だ、とも。
自分の好みを知り尽くしている彼は、いったいどう察したものか、シュミットの心持ちに合わせて砂糖を入れたり抜いたり、ミルクを一滴落としたり、ちょうどほしいと思う加減で入れてくるから不思議だ。
それだけ、彼が自分を見ているのかと思うと悪い気はしないのだが。
いやむしろ、いい気しか、しないのだが。
……彼はもう先に帰っているのだろうか。
授業の都合で今日は帰宅が別々になってしまったから、珍しく彼の行動が把握できていない。
けれど自分よりも先に帰路に着いたはずだから、何事もなければ既に帰宅しているはず、だ、と思ったそのとき、

「………エーリッヒ?」

思い浮かべていた人影を、路地の向こうの軒下に見つけた。
胸元に荷物を抱えて、どんよりと立ちこめる空を見上げるようにして立っている。
こんな雨の中で何をしているのだ、自分よりも随分先に帰宅したはずだったのに、と急ぎ足をさらに速める。
ぱしゃりと足元の水が撥ねた。
先ほどまでは気になっていたそれが、たった一人を視界に入れただけでまるで気にならなくなったということにもシュミットは気付かない。
ぱしゃぱしゃと盛大に水を撥ね退けながら動かした足が、やがて思う人影のもとまで辿り着いた。
エーリッヒと名を呼ぶと、らしくもなくぼんやりと空を見上げていたらしい幼馴染はそこではじめてこちらを向いた。

「何をしてる」

驚きにか目を丸くして、それからにこりと目が細められた。

「シュミット」

帰ろうと思ったら、ここまで来て雨に降られてしまったんです、エーリッヒが少し傾けて笑った。
見れば肩口がわずかに湿っていて、薄いシャツが肩にはりついたようになっている。
慌てて軒下に駆けこんだはいいが、一向に止む気配のない雨にすっかり足止めをくってしまったというところか。

「随分先に出たのに、追い付かれてしまいましたね」

だったら初めから待っていればよかったです。
エーリッヒが肩を竦めたのに小さく笑って、

「私を置いていくから雨に降られたんだな」

罰が当たったんだろうと返せば、そうですねと肯定しながらエーリッヒはまた肩を竦めた。

「……帰るか」

差し向けた傘の中に、荷物を抱え直したエーリッヒが一歩踏み入れる。

「はい」

そうしてひとつ傘の下、並んで歩き始めた。





二人でひとつの傘を共有するとなれば、一人で歩いていたときのようには歩けない。
自然ゆっくりになる速度に、すみませんとエーリッヒが謝った。
別に構わないと言えば隣に幼馴染みは申し訳なさそうに笑って眉を寄せた。
本当に、構わないと思ったのだが。

「でも、濡れるの、あまり好きではないでしょう?」

それはそうなのだが、

「まあ、お前と一緒ならな」

口の中の呟きは、どうやらエーリッヒには届かなかったらしい。
何か言いましたかと尋ねてくる視線を笑ってかわして、しばし雨道を楽しむことにした。
ふと横を見やれば、街路樹の青々と茂った葉はしとどに濡れて、その先端に雫をためている。
ぱたりと降りつむ雨に艶を誘われて、雨空の薄い光を反射している。
陽光を反射するのとは違った色に、ああ確かにこれも悪くないかと思えるのは、隣にいる幼馴染みの効力が大きいのは言うまでもない。
我ながら現金なものだ。
ちらりと見つめる、自分よりもわずかに高い位置の横顔は、辺りの景色を目にしてか、どことなく嬉しげに眼を細めている。
この穏やかな顔が傍にあれば、自分もいつでも穏やかでいられる気がする、と言ったら言い過ぎだろうか。

「…帰ったらコーヒーが飲みたい」

ぽつりと呟くと、

「……砂糖、必要ですか?」

雨の日はあまり機嫌が良くないのを知っているからだろう、そんなことを控えめに聞いてくる幼馴染みは、さすがにシュミットの心理をよく把握している。
彼がそうしてくるのは自分にとって至極当然で当たり前で、彼がそういう風に何も言わずにも自分を理解しているというのはとてもいい心持ちがする。

「いや。今日はいい」

「そうですか?」

珍しいですねと、エーリッヒが首を傾げた。
何かいいことでもあったんですかと、雨の中を機嫌よく歩くシュミットが本当に珍しかったのだろう。

「今日はな。糖分はもう、足りているからな」

「何か、甘いものでも?」

それで機嫌がいいのだろうかと首をひねっているエーリッヒに、シュミットは口元で笑った。

「糖分は、お前で補給するからいいんだ」

帰ったら一緒にコーヒーを飲んでゆっくりしよう、二人で。
寄せた耳元に囁くと、わずかに赤みを帯びた頬がこちらを向いて、

「………はい」

照れたように、またすぐに前を向いてしまったが、先程よりも近づいた距離はそれ以上離れることはない。
小さなひとつの傘の中の影は、帰路を辿る間中ずっと、傍に寄り添っていたのだった。








2010.4.21
作品名:雨の日に 作家名:ことかた