陽のあたる部屋の一日
女の子は幻想だなあ、ファンタジーだ。
夢の様に甘くて、バニラアイスの様に白くて冷たい、俺が触れたらそのまま溶けそうで、思った通り触ったらやっぱり溶け消えて、ファンタジーだ。
彼女達の何かに触れるなんて夢のまた夢。
足と足の間で両手をはさんでゴロリと横に転がると、白の薄いカーテンの間から射し込んだ光が腕の辺りでゆらゆらと揺れていた。
女の子の太ももはもっと柔いよなあ、パチリと目を瞑ってハアと溜め息をついて下に敷かれている薄い灰色に青のまじった様な色のなめらかな生地のブランケットを右足でツゥと伸ばすとピンと一部分だけ張った。
ブランケットからはいつもの暖かそうな太陽とシャンプーの甘い匂いがした。
その清潔で現実的な匂いのするベットがイタリアは好きだった。
あーあ、女の子もこんな風であればいいのに。
ただ優しくあるのはそんなに難しいことなのだろうか、甘い匂いはあるとしても太陽の香りがしない彼女達は夜より冷たい。
もしかしたら日焼けをしないようにと太陽を遮断しているから彼女達はああいう風に白く冷たいのかもしれないなあ。
「……だったら、俺はお前がいいよう…お前が一番だよ世界一だよー!」
ぐるりと、窓側に向けていた体を反対側に振り向けて隣に寝そべっていたその大きな体にぎゅうぎゅうと抱き着いた。
キラキラと輝く金色からは洗い立てのシャンプーとそれから太陽の香りがする。
「なのに……なのになんでお前は犬なの!」
長く美しいふさふさとした尻尾をゆっくりパタリパタリとイタリアの太ももに当て振りながら、金色の艶々とした毛のゴールデンレトリバー(8ヶ月・♂)はベロリと彼の頬を舐めた。
「慰めてくれるの?…やっぱり俺にはお前しかいないんだ…なのになんでお前は人間じゃないの…!」
「残念ながらソイツはオスだぞ」
「……知ってるよ、良いの!ドイツも慰めてくんないし他に誰もいないしさあ」
「兄さんがいるだろう」
「だから俺にはお前しかいないよ。このふさふさの毛並、すきだよー」
「存在を無視か」
「あーあドイツの中身がコイツだったら良かったのになあ」
そう言いながら犬越しにベットに腰掛けて本を読んでいたドイツの腰のあたりを足で小突くと、鬱陶しそうに溜め息をつかれた。
「またフラレただけだろう」
「またとか、言わないで!」
「フラレただけだろう」
「フラレた、とかだけ、とか言わないで!」
「…だろう?」
「………そういうのはさあ察してよ、言わなくてもさあ」
飼い主には似るなよーと気持ちよさげにしている犬の耳をグニグニと揉みながら言うとめんどくさそうにドイツは読んでいた本を閉じた。
なんかまたお説教とか、ごちゃごちゃ言われそうだなあとか思ったらこちらに向き直ったドイツは普段滅多にしないすごく優しげな微笑みをしてイタリアの頭にポンと手を置いて撫でた。
「…あー…お前にはレベルが高かっただけだ、いつまでもくよくよ悩むな」
「え…それ…すごい傷つくんだけど…」
「……すまん」
陽のあたる部屋の一日
作品名:陽のあたる部屋の一日 作家名:萩野