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どこまでも青い空の下で

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 今日の私はすこぶる機嫌が良い。どれだけ良いかって、菫子さんに「おデートですか?」と当てられてしまうくらい。それっていつもの事だけどね。私は買ったばかりの白いマフラーを首に巻きつけながら「いいでしょ」と笑った。鏡を見て、身だしなみの最終チェック。うん、完璧。ついでに笑顔も作ってみる。いっぱい寝たから顔色も良いし、上等上等。
 外は寒かったけれど、もう春がすぐそこまでやって来ている気配がそこかしこにしていた。梅は今まさに見頃を迎え、まっさらな青空とのコントラストが鮮やか。駅へ着いて、電車に乗って、K駅で降りる。休日なので子供達の姿が多く見受けられた。待ち合わせの時間には余裕があるが、相手はきっともう来ている。そういう人だもの。ほら、そこの柱の下に。

 「ごきげんよう」

 ああ、今日も完璧なアルカイックスマイル!

 私はそのまま拝みそうになるのを堪えて何とか「ごきげんよう」と返した。鏡の前でやった笑顔とは全然違ってしまった気がするが、目の前のマリア像はそんな私を見ていっそう微笑んだ。これ以上微笑まれたら後光が射しちゃうよ志摩子さん。

 志摩子さんは白い帽子を被っていた。コートも白で合わせている。茶色いプリーツのスカートにブーツ。上品で可憐で完璧だ。今日は、どこへ行くという目的も決めていない。仏像鑑賞や教会巡りではない、同年代の女の子らしいデートなんて久し振りだった。一緒に駅ビルのショッピングモールをのんびり見てまわる。そりゃあ私だって一応健全な女子高生ですから、可愛い洋服や雑貨を見るのも好きなのですよ。仏像以外に興味がないと思われていたら心外なので、ここで言っておきますけれど。まあ確かに、見るだけで滅多には買いませんけれどね。仏像鑑賞にはお金かかりますから、それはそれ。
 ビルのレストラン街で昼食。平日は1000円以下で食べられるランチも充実しているので有り難かった。志摩子さんはカルボナーラ、私はミートソースのスパゲティを頼む。カルボナーラって白くてマイルドでふわふわしててまるで志摩子さんみたいだな、なんて私の脳みそは相当蕩けきっていた。

 その後は、この辺りでは有名な大きい公園に行く事にした。志摩子さんと一緒ならどこだって構わないのだが、ひたすら良い天気だし、手を繋いでお散歩なんてちょっとどきどきする。梅が並んで咲いているのを見たり、芝生に居た犬に妙に懐かれたりした。大きな池の縁に寄り掛かって、優雅に泳ぐ鯉なんかを眺めながら、あと一月ほどで迎える新学期の話題になった。今度は何組かな。どんな一年生が入ってくるかしら。山百合会に新しく後輩達が入って来るのが楽しみだわ。乃梨子はどんな妹を持つのかしらね。私はどんどんどんどん陰鬱な気分になっていった。もう朝のテンションはどこにもない。目の前の池にずぶずぶ沈んでいくような気分だった。志摩子さんは相変わらず柔らかい口調で、新しく始まる新学期に思いを馳せているように目を細めた。今日の志摩子さんは随分機嫌が良いんだと、この時初めて気付いた。普段の志摩子さんは、こんな事言わない。脈絡もなく話題をころころ変えたりしない。私は途端に不安に襲われた。志摩子さんがいきなり遠くに感じられた。そんな私の様子に気付かない志摩子さんはやっぱりいつもの志摩子さんではなかった。相変わらず後光を背負いながら、次々と残酷な言葉を投げて寄越す。そろそろ進路を決めなければだの、修道院がどうだの、お寺を継ぐとしたら婿養子を探さなければならないわだの。
 「ねえ乃梨子。ひとつ訊いてみたいのだけど」
 目の前の志摩子さんが、まるでマリア様のように柔らかく微笑む。
 「私が死んだらカトリックのお葬式かしら、それとも仏様かしら?」

 傾きかけた西日の中で、志摩子さんの姿がうっすらと透けてゆく。やがて音もなく、春を思わせる柔らかい斜光に消えた。

作品名:どこまでも青い空の下で 作家名:泉流