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主人公惣受け物語~アニポケ・カントー編~

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スターミー「フッ、フゥ!」


 各々、水中で自由に踊り舞うポケモン達。人の指示を介さずに自分たちの意思で行動するそのさまは、ポケモン達が独特の楽しさを引き出しているように見える。


パチパチパチ!


 水ポケモン達が踊っている間に、度々観衆からの拍手が巻き起こる。自由気ままな光景が、観衆の心を引きつけているようだ。


ポッチャマ「ポォ〜、ポチャア!」


カメール「「カメェ!」」


スターミー「フゥ!」


 その後も、ポケモン達が自らの技を駆使して文字を作ったり、それらを組み合わせて来場した観衆に向けた感謝の意を伝えるなど、ショーは上々の出来で幕を閉じた。観衆からは惜しみない拍手が送られた。そして時間は流れ、非常に大盛況で幕を閉じたショーの夜のこと。


アイリス「…。」


 ここはカスミ宅。アイリスは庭に出て、外の柔らかな風に当たっていた。


アイリス「…キバゴ、寒かったら言ってね。」


キバゴ「キバキバ。」


 アイリスはキバゴを心配し声を掛けるが、キバゴはアイリスに心配かけまいと大丈夫だと強調する。


カスミ「アイリス、少し隣良いかしら?」


アイリス「あっ、カスミ。えぇ、良いわよ。」


 そんな時にカスミが庭に出てきて、アイリスに声を掛ける。その後カスミは、アイリスの左隣に移動し、二人は並んで風に当たる格好となる。


アイリス「カスミ、今日の水中ショー素敵だったわ。お疲れ様。」


カスミ「ありがとう。ただ今回は、観衆に向けたアナウンス、ゲストのパフォーマーといろいろと新しい試みをしたから、こんなに上手くいくなんて思ってもみなかったわ。」


アイリス「ハルカ、ヒカリ、ノゾミが出て来た時はどうなるかと思ったけど、最初から最後まで見逃せなかったわ。」


カスミ「その様子だと、ハルカ達が出て来た時はそこまで驚かなかったようね。」


アイリス「まぁ、午後の部の前にハルカ達がいない時点でおかしいなとは思っていたし、ハルカ達が登場する直前にはほとんど気づいていたの。」


カスミ「本当はサトシ達をびっくりさせようと秘密にしていたんだけど、上手くいかなかったみたいでそこだけが唯一の失敗かな。」


アイリス「ハハハ…。」


 ハルカ、ヒカリ、ノゾミ登場時のサトシ達の反応が思ったのとは違うものだったので、カスミはその点が心残りだった。ただ、パフォーマンス自体はそのことを払拭させるものだったのはここで言っておきたい。


アイリス「カスミは凄いわ。ジムリーダーで、さらには水中ショーのこなしているんでしょ。おまけに短い調整の間で、ハルカ達とあんなに意気ピッタリのパフォーマンスを魅せるなんて。ハァ…。」


カスミ「ん? どうしたの?」


キバゴ「キバァ?」


 アイリスがカスミを褒め称えつつ溜息を吐いたので、カスミは首を傾げながらアイリスに問いかける。そばにいたキバゴも首を傾げながら、アイリスに声を掛ける。


アイリス「カスミ、アタシが言う事聞いてもらってもいい?」


カスミ「えぇ、もちろんいいけれど…。」


 アイリスはカスミに確認を取った後、さらに話を続ける。


アイリス「実はね、アタシ。ソウリュウジムのジムリーダー・シャガさんから次のジムリーダー候補に指名されているの。」


カスミ「凄いじゃない、アイリス! ジムリーダー直々に後継者として指名されるなんて、滅多にないことよ。」


アイリス「うん、ありがとう。でも、今自分がどうするべきか迷ってるんだ。もちろん、ドラゴンポケモン専門のジムのジムリーダーになることは、アタシにとって光栄よ。でも、まだ心の準備ができてなくて。」


カスミ「…。」


 アイリスの話を黙って聞くカスミ。そのまま、アイリスは話をさらに続ける。


アイリス「それでね、今日の水中ショーを見て改めて思ったんだ。カスミをはじめ、ジムリーダーっていろんな人がいるんだなぁって。その時、アタシには何があるんだろうとも…。カスミにデントにタケシ、それにスズナさんとアタシの周りにはジムリーダー経験者がいる中で、上手くやっていけるのかなぁ…。」


キバゴ「キバァ…。」


 アイリスは、ソウリュウシティでシャガに次期ソウリュウジムのジムリーダーについて聞かされて以来、そのことで多少の不安があった。それを今日、カスミに打ち明けたのだ。それを聞いたカスミは、


カスミ「アイリス。あたしがこのハナダジムのジムリーダーになった時、最初から自身に満ち溢れていたと思う?」


アイリス「えっ?」


カスミ「あたしもね、ジムリーダーになった当初は不安でいっぱいだったの。ジムに挑戦してくるトレーナーにどうしたら失礼のないバトルが出来るのかとか、ジムリーダー自身にとってもトレーナーにとっても実になるバトルをするにはどうすればいいのかとか、いろんなこと考えちゃってね。」


 今度は逆に、カスミの熱弁をアイリスが聞いている。カスミはさらに話を続ける。


カスミ「でも、それも数をこなしていくうちに慣れて来たわ。あとは、アイツとの出会いがきっかけかしら。」


アイリス「アイツって?」


カスミ「ほら。今あたし達と一緒に旅をしている。」


アイリス「あぁ、サトシね。」


カスミ「あたしもかつては、不安だったのに加えて自意識過剰なところもあった。でもサトシや他の仲間達と旅をしていく中で、いろんなことを学ばさせられたわ。特にサトシは、お子ちゃまなところもあるけれど、あたしや仲間がピンチの時は力になってくれたりと、何だか憎めないのよね。」


アイリス「確かに。サトシって子供だって思うときあるけれど、いざというときには力になってくれる太陽みたいな存在だわ。」


カスミ「だからね、アイリス。あなたの周りには助けになる人たちがいる。頼りすぎるのはよくないことだけど、自分一人じゃ解決できないことならあたし達はよろこんで協力するわ。もちろん、今のジムリーダーの話は、あたし、タケシ、デント、スズナさんと経験者の立場として協力する。それにポケモン達も少なからず力になってくれるわ。」


 カスミは、自分を含めてアイリスをできる限りのことは協力すると自信満々に答える。


アイリス「…カスミ。」


キバゴ「キバァ!」


アイリス「…キバゴ。」


 カスミの熱弁を聞いたアイリスはしばらく考えた後、


アイリス「カスミ、ありがとう。アタシ、気負い過ぎて知らぬ間に抱え込んじゃった。そうよ。別に一人で考え込まなくてもいい、周りを頼っても別に罰は当たらない。」


カスミ「そうよ、アイリス。その意気よ。今焦らなくてもゆっくり自分を高めていけばいいんだから。」


アイリス「はぁ〜、なんだかスッキリしたわ。カスミ、改めてありがとう。そして、これからもよろしくね。」


カスミ「あたしのほうこそ。」


 カスミのおかげで、自分の心の奥底にあった不安が少し和らいだアイリス。2人はお互い笑いあいながら、屋内へと戻っていった。水中ショーも無事に終わり、仲間同士の絆もさらに深まっていった面々。ここから、さらに一歩踏み出すのである。


続く






後書き